ノーベル物理学賞2008

ボジョレ・ヌーボーを飲むお祝いのネタとして楽しみにしているノーベル賞です.
去年はあまり関心が沸かなかったらしく何も記していませんが,一昨年はこんなことを書いていました.
ノーベル物理学賞2006 - なぜか数学者にはワイン好きが多い

宇宙論からキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!

しかも,予言者がおりました.

今年は,わずか半日で,ネット上では物凄い反響が出ていますが...

http://www.asahi.com/science/update/1007/TKY200810070297.html

 スウェーデン王立科学アカデミーは7日、今年のノーベル物理学賞を、米シカゴ大名誉教授で大阪市立大名誉教授の南部陽一郎氏(87)=米国籍=、高エネルギー加速器研究機構茨城県つくば市素粒子原子核研究所の元所長・小林誠氏(64)と京都大名誉教授で京都産業大理学部教授の益川敏英氏(68)の3人に贈ると発表した。日本人が3人同時受賞するのは初めて。

ノーベル物理学賞を,共同受賞で日本人が占めるのは,湯川秀樹先生以来です.
(南部先生を,とりあえず日本人として,ですが...)

益川先生の,謙虚な発言が先生らしいです.

 一方で、南部さんが受賞したことには「当然のことで、南部先生が取ったのが一番うれしい」と喜んだ。「南部先生が我々に非常に速くアイデアを出してくださった。しかし、それを最後まで刈り取(ってご自分の成果にす)ることがあまりない。南部先生は(これまで)賞にはマッチングしなかったんですね」と話し、「日本人としてとてもうれしい」と強調した。


さて,日本は素粒子論は強い(というか,物理学科だったら学部レベルで習う)ので小林・益川理論は広く知られていますが,理系でも「名前は知っているけど専門じゃないので詳しくは知らない」という人が多いと思われる,南部先生の方につきまして.


超弦理論が絡んでいるので,物理では一般相対論系の人たち,それから数学では幾何学系の人たちならご存知だと思います.


私が若い頃に南部先生の仕事について知ったのは,20年近く前に発売された,講談社ブルーバックスの次の本で読んだ時です.
http://www.amazon.co.jp/%E3%82%A2%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%82%BF%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%92%E8%B6%85%E3%81%88%E3%82%8B%E2%80%95%E5%AE%87%E5%AE%99%E3%81%AE%E7%B5%B1%E4%B8%80%E7%90%86%E8%AB%96%E3%82%92%E6%B1%82%E3%82%81%E3%81%A6-%E3%83%96%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%90%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9-%E3%83%9F%E3%83%81%E3%82%AA-%E3%82%AB%E3%82%AF/dp/4062571641
(なぜか1988年版と1997年版では,サブタイトルが違っています.旧版では「超弦理論が語る宇宙の姿」,新版では「宇宙の統一理論を求めて」です.80年代の弦理論の行き過ぎたブームを踏まえて表現を控えたのなら深い読みですが,数学的には南部・後藤の作用は,なんら古いものじゃありません.)


全11章のうちの5章目に,何ページにも渡って南部先生について記されている箇所があります.モノクロの写真が載せられておりますが,恐らく1985年頃,南部先生が65歳かその少し前のものと思われます.


該当節のタイトルは「南部流」.始まりは次のような感じです.

もったいぶった社会の儀礼を嘲笑して喜んでいたアインシュタインや,悪ふざけが好きだったファインマン,物理学界の恐るべき子供ゲルマンの誰ともちがい,南部は,物静かで礼儀正しいが常に一見識ある態度で知られている.ときに軽率なところもある西洋人の同僚に比べると,控えめでそれだけで思慮深く見える伝統的な日本人的性格を色濃く備えた人物である.

ずいぶんと持ち上げられているように思われるかもしれませんが,別に「日本人的」だから著者が褒めているわけではありません.
それが主張されているのが,続く文章です.

(前略)
しかしこれは,彼が物理学の最も基本的な発見のいくつかに関与していながら,自分の先取権を主張しなかったということでもある.物理学では,発見には発見者の名前がつけられるのが一応の常識だが,それが歴史的に正しく守られているとは限らない.例えば,二つの電子からなる系の挙動を記述する有名なベーテ・サルピーターの方程式を発表したのは,南部が最初である.
対称性の自発的な破れ」に関する初期の考察の多くも南部によるものであるが,何年も「ゴールドストン」定理として知られていた.南部・ゴールドストン定理という正しい名前で呼ばれるようになったのは,ほんのここ数年にすぎない.しかし,超弦理論の分野で弦理論の基本方程式を著したのが南部であることは,はっきりしている.


長くなりますが,60代の小林・益川先生に比べ80代になった南部先生が受賞になったことに関しては,さらに引用しなければなりません.

非凡な成果のいくつかがすぐに認められなかった理由の一つは,彼がいつも時代にはるか先んじていたためである.彼の同僚であるノースウェスタン大学のローリー・ブラウン博士が書いているように,南部は「飛躍の足場となる革新をもたらす先駆者」であって,「世に認められるまで何年も,ときには何十年もかかる人物」なのだ

誠に予言的な一文に思えます.