大衆紙がリサ・ランドール物理学者を報じると

素人が素人向けに文章を書くから酷いことになるのですが,それにしても...
http://r25.jp/web/link_review/20008000/1122008011803.html?vos=nr25an0000001

美人理論物理学者が提唱する5次元ってどんな世界?

僕らが暮らしている世界は3次元世界と思われがちだが、立体空間に加えて時間の概念も存在している。厳密にいえばこの世界は縦、横、高さ、時間から構成される4次元世界。そして、5次元世界は4次元世界に、さらに何らかの要素を1つ加えた世界ってことらしい。ってことは、ドラえもんのポケットは、実は“5 次元ポケット”だったってこと? うーん、興味深いけどよくわからない…というわけで、詳しい話を東京大学素粒子物理国際センターの兼田充さんに聞いてみた。早速ですが、僕らはこの“5次元世界”に行くことはできるんですか?

「それはムリですね。この理論は、我々の宇宙はさらに高次元の余剰空間(ここでは5次元世界と考える)に埋め込まれた膜のようなものと考えています。ランドール教授の著書『ワープする宇宙』ではこれをバスルームにたとえて説明しています。“5次元空間”はバスルーム全体。我々が住む4次元世界は、バスルーム内のシャワーカーテン。そして、人間や建築物などはシャワーカーテン(4次元世界)に付いている水滴です。水滴はシャワーカーテンを伝って移動することはできるけれど、飛び出して別の場所に移動はできません。それと同じように、我々も4次元世界を飛び出して5次元世界に移動することはできないんです」

文章も下手ですね...元の文意を壊さないように引用したら,こんなに長くなってしまいました.一文が長くて,小学生の文章のようです.

しかし,「ワープする宇宙」の監修者の向山さんも悪いです.
http://www.amazon.co.jp/%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%83%97%E3%81%99%E3%82%8B%E5%AE%87%E5%AE%99%E2%80%955%E6%AC%A1%E5%85%83%E6%99%82%E7%A9%BA%E3%81%AE%E8%AC%8E%E3%82%92%E8%A7%A3%E3%81%8F-%E3%83%AA%E3%82%B5%E3%83%BB%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%BC%E3%83%AB/dp/4140812397
いえ,ひょっとしたら版元のNHK出版社に押し切られたのかもしれませんが...
(可能性,大)
「ワープ」と言ったら,日本人だったら,宇宙戦艦ヤマトドラえもんなんかが瞬間的に超長距離に移動することを想像するでしょう.
しかし,物理学の「ワープした宇宙(warped space-time)」と言ったら,常識的に訳は「歪んだ時空」です.
リサ・ランドール教授の著作の原題は,「Warped Passages」です.正しいのは「ワープ」という箇所です.恐らく,原題の意味は「歪んだ空間を移動するコト・モノたち」(恐らくは重力子のこと)という意味合いでしょう.時空(4次元,あるいは5次元多様体)が強い重力で歪むと,瞬間移動イメージの「ワープ」のように,違う世界に飛び出す可能性があります.
「(日本人がイメージする)ワープする宇宙」と,「歪んだ時空を移動する重力子」とでは,天と地ほども意味が違います.

きちんとリサ・ランドール博士の理論を理解したかったら,NHK出版の本よりも,数理科学誌をお薦め致します.

株式会社サイエンス社 株式会社新世社 株式会社数理工学社

数理科学 2008年2月号 No.536

特集:「ゲージ重力対応」− 超弦理論が切り開く現代物理の新地平 −

<内容詳細>
本テーマは,ここ10年ほどの間に超弦理論の進展の主軸となっている概念です.これは,素粒子物理と弦理論の歴史的な発展の上でも重要とされているゲージ理論と重力理論の互いの関係性を明らかにするもので,双方の理論の言葉によって同じ物理現象を記述することができる,という画期的な見方として注目されています.本特集では,これまでの歴史的発展の概観も含め,原子核物理などへの拡がりも取り上げつつ,現代物理に必要な新しい方法論としても魅力あるテーマを紹介していきます.
■特集
・「はじめに」 米谷民明
・「ゲージ重力対応とは何か」 米谷民明
・「Dブレーンの力学からゲージ重力対応へ」 橋本幸士
・「弦理論とQCD」 酒井忠勝、杉本茂樹
・「ゲージ重力対応と強い相互作用」 夏梅 誠
・「ホログラフィーと宇宙」 白水徹也
・「AdS/CFT対応におけるウィルソンループ」 三輪光嗣
・「巨大重力子・泡状時空・行列模型」
  〜AdS/CFT対応における時空の出現〜 土屋麻人
・「AdS/CFT対応はどこまで確かめられているか」
  〜可積分性の役割〜 酒井一博

リサ・ランドール博士の論文は,例えば白水氏の「ホログラフィーと宇宙」の中で,

adS/CFT対応の宇宙論版がある.状況証拠が存在する程度に留まるもののなかなか興味深く,本稿で紹介するに値するものと考える.
(中略)
この設定は1999年にRandallとSundrumによって提案されたブレーンワールド模型からも動機付けされる.

と紹介されています.
この号の数理科学誌には,相対論の大御所米谷先生の他にも,大御所前田先生の連載「重力理論入門」があり,その中で「時空は量子化すべきか」と,とてつもない発想展開を御紹介されております.
前田先生の説明は非常に説得力があり,私がライフワークと位置付けていた一般相対性理論のRegge Calculusについて考え直そうと思い始めたくらいです.

Regge Calculusが究極だと思ったのですけど...検討しなおしてみます.(前田先生の記事によると,アシュテカ博士が複素数四元数を用いた理論も,アシュテカ教授自身が見直しを始めているそうです.)

Regge Calculusについては,Googleしたらいくらでも出ますので,探してみて下さい.少し前に格子重力理論の絡みで話題になったことがありました.