"環境問題のウソ"のウソ:読んでみた

いかにも胡散臭い(タイトルからしてセンセーショナルで大げさに煽っている,内容が背後に陰謀があるような書き方をしている,他の資料からの引用の紹介が曖昧で検証がしにくい)ので買っていなかった「環境問題はなぜウソがまかり通るのか」ですが,


環境問題はなぜウソがまかり通るのか」シリーズ(武田邦彦著)
http://www.amazon.co.jp/%E7%92%B0%E5%A2%83%E5%95%8F%E9%A1%8C%E3%81%AF%E3%81%AA%E3%81%9C%E3%82%A6%E3%82%BD%E3%81%8C%E3%81%BE%E3%81%8B%E3%82%8A%E9%80%9A%E3%82%8B%E3%81%AE%E3%81%8B-Yosensha-Paperbacks-024-%E6%AD%A6%E7%94%B0/sim/4862481221/2?ie=UTF8&pf=book
http://www.amazon.co.jp/%E7%92%B0%E5%A2%83%E5%95%8F%E9%A1%8C%E3%81%AF%E3%81%AA%E3%81%9C%E3%82%A6%E3%82%BD%E3%81%8C%E3%81%BE%E3%81%8B%E3%82%8A%E9%80%9A%E3%82%8B%E3%81%AE%E3%81%8B2-Yosensha-Paperbacks-029-%E6%AD%A6%E7%94%B0%E9%82%A6%E5%BD%A6/dp/4862481825/ref=pd_sxp_grid_i_0_0/250-1614890-2819428

嬉しいことに,怪しいところを検証する本が出ました.こちらは速攻で買いました.


「"環境問題のウソ"のウソ」(山本弘著)
Amazon CAPTCHA
2008年1月15日第1刷とありますので,まだ新しいようです.

ハードカバーじゃなくてペーパーバックなので軽く見えるのですが,内容は濃いです.章立てからして濃いです.

まず,第1章〜2章が,「環境問題はなぜウソがまかり通るのか」のウソを暴いています.ここで,「ウソ」というのは,本人が他人を騙そうと思って言っているウソだけではなく,資料の無意識的な改竄・文脈のいい加減な引用等を含みます.これは,山本氏が「と学会」会長ならではの,少なくとも私にとっては周知のことです.
第3章は「環境問題はなぜウソがまかり通るのか」等の武田教授の著書への比較的些細な箇所へのツッコミ,第4章から6章は,
武田教授とのテレビでのやり取り,電子メールでのやり取り,武田教授が「ペットボトルを回収してリサイクルしている,というのはウソで,実はただ燃やしている」と主張してるリサイクル業者の工場の見学等,生々しいやり取りと,それを通した武田邦彦教授の欺瞞へのツッコミです.
さらに第7章,その後に出版された「環境問題はなぜウソがまかり通るのか2 」へのウソ追求をしております.
第8章もありまして,「地球温暖化」全般への見解が示されています.

いや,面白くて,最初は「毎日の通勤電車の中でゆっくり読んでいこう」と思っていたのですが,一日で一気に読んでしまいました.だって,Webのほとんど一次に近い資料の紹介がある上に,武田氏出演のテレビのスナップ画像まであるので,まぁ画像の加工をしていないと仮定すれば,「環境問題はなぜウソがまかり通るのか」が本当にウソだというのが一目瞭然な構成になっているのです.

とてもお薦めの本ですが,環境問題,特に「温暖化って,どうなんだろう?」と思っている方には,次のような本もあります.


「怪しい科学の見抜きかた―嘘か本当か気になって仕方ない8つの仮説 」(ロバート アーリック著)
http://www.amazon.co.jp/%E6%80%AA%E3%81%97%E3%81%84%E7%A7%91%E5%AD%A6%E3%81%AE%E8%A6%8B%E6%8A%9C%E3%81%8D%E3%81%8B%E3%81%9F%E2%80%95%E5%98%98%E3%81%8B%E6%9C%AC%E5%BD%93%E3%81%8B%E6%B0%97%E3%81%AB%E3%81%AA%E3%81%A3%E3%81%A6%E4%BB%95%E6%96%B9%E3%81%AA%E3%81%848%E3%81%A4%E3%81%AE%E4%BB%AE%E8%AA%AC-%E3%83%AD%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%88-%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%83%AA%E3%83%83%E3%82%AF/dp/4794216629/ref=sr_1_1/249-3773685-0113166?ie=UTF8&s=books&qid=1200501906&sr=1-1
第6章に,「地球温暖化は本当に心配すべきなのか?」というのがあり,結論として著者は,4点の問題のうち2点が賛同できないとしています.要約してみますと,

  • 地球の温暖化は生じているのか?

ほぼ間違いなく生じている(温暖化心配者に対し,賛同)

  • 温暖化は人間に起因しているのか?

おそらくその通りだと思われる(温暖化心配者に対し,賛同)

  • 2100年には温暖化はどの程度のものになりそうか?

たぶん,IPCCの予想の半分以下に収まるだろう(温暖化心配者に対し,多少の疑問)

  • 気象の上昇は有害か,それとも有益か?

有益な可能性が高い.ただし,発展途上国(温暖化による海面上昇に対し,効果的な防波堤を作る資金・人員等もない国々)にとっては重大なものになるかもしれない(温暖化心配者に対する,ある程度の賛同,もしくは温暖化心配者に対するある程度の疑問)


というところです.


ところで,山本弘氏の「"環境問題のウソ"のウソ」には,ささいですが一箇所だけ,私には賛同できない発言があります.それは本書のメインとは離れる箇所なのですが,以下の文章です.(「"環境問題のウソ"のウソ」pp. 265--266)

一般相対論もそうで,発表されてすぐに科学界で受け入れられたわけではない.ホイルのC場理論,ブランス・ディッケの理論,ホワイトヘッドの理論など,多くのライバル理論が存在したからだ.しかし現在は,たくさんあったライバル理論はみんな間違いが判明して敗退し,一般相対論だけが生き残っている現状である.

この一文(正確には3文章)だけなら,特に気にはしないのですが,山本氏は再三に渡って同様な論を発表しています.私が気になるのは,ブランス・ディッケです(自分も専門なので...).
すぐ手元にある書籍からは,山本氏の次のような文章もありました.(「隣のサイコさん」,p. 187)

たとえば,1922年に発表されたホワイトヘッドの理論は大変によくできており,50年にもわたって一般相対論の有力なライバルであり続けたが,一箇所だけ観測事実と合わない部分が発見され,敗れ去った.ブランス=ディッケの理論は,一般相対論と同じく,水星の近日点移動を予言していたが,その数値は実測値と約4秒(900分の1度)だけ合わなかった.どうしてもその誤差を説明できなかったため,ブランス=ディッケの理論は敗退した.

「超重力理論」で有名な藤井保憲博士によると,正確には一般に呼ばれている「ブランス=ディッケ」(私もそう呼んでいる)よりも,「ブンランズ=ディッキー」が正しいとのことです.

いや,私が言いたいのはそんなことじゃなくて,「ブランス・ディッケの理論は生き残っている」ということです.
大物としては,通称「電話帳」こと「GRAVITATION(重力)」(チャールズ・ミスナー,キップ・ソーン,ジョン・ウィーラー)でも「ディキー・ブランズ・ヨルダンの重力理論(theory of gravitaion of Dicke-Brans-Jordan)」ということで,索引に載っています.僅かに後に出版された書籍としては,「The large scale structure of space-time(時空の大域的構造)」(スティーブン・ホーキング,ジョージ・エリス)にも,「ブランズ・ディッキーのスカラー理論(Brans-Dicke scalar field)」ということで紹介されています.
http://www.amazon.co.jp/Gravitation-Physics-Charles-W-Misner/dp/0716703440/ref=sr_1_1/250-2811808-2367451?ie=UTF8&s=english-books&qid=1200503994&sr=1-1
http://www.amazon.co.jp/Structure-Space-Time-Cambridge-Monographs-Mathematical/dp/0521099064/ref=pd_sim_fb_img_3/250-2811808-2367451

邦書でもいくらでも例はありますが,スカラー場に特化した本としては,前述の藤井保憲先生の「重力とスカラー場」があります.
Amazon CAPTCHA

通常の「アインシュタイン一般相対性理論」と,ブランス・ディッケの「一般相対論的スカラー場理論」では,確かに事実上,一般相対性理論が「物理学的に正しい」とされています.
その根拠は,「どちらも観測事実に合うが,一般相対論の方がシンプルである」ということに尽きます.ブランス・ディッケの理論には一般相対論には無いパラメータがあり,このパラメータの設定の仕方によって結果が変わるのです.だから,そんな設定をするくらいなら,設定がそもそも必要の無い一般相対論の方が「オッカムのカミソリ」的に正しいというわけです.
ただし,一般相対論はそのままでは決して量子論と相容れませんが,ブランス・ディッケの方は相容れる可能性があるということで,現在まで生き残っています.

ということまで分かった上で「ブランス・ディッケは敗退した」と書いているのか,それとも,一般的に,例えば大学理学部ではブランス・ディッケではなくアインシュタイン一般相対性理論を教えるという意味での正しさで書いているのか,山本氏にメールでも書いてみようかと思います.