トンデモ気象(?)学者

2ちゃんやmixiでも話題なのでしょうが...

http://sankei.jp.msn.com/science/science/090802/scn0908021801001-n1.htm

 東京地裁で気象学者らが注目する裁判が行われている。

 原告は「CO2温暖化説は間違っている」などの著書がある“懐疑論者”の一人、槌田敦・元名城大教授。被告は日本気象学会(東京)だ。

 槌田氏の訴えはこうだ。

 昨年4月、「二酸化炭素(CO2)の増加が地球温暖化をもたらす」という“通説”の因果関係の逆、つまり「気温が上昇することで海中に含まれるCO2が放出され、CO2濃度が増加する」とする論文を日本気象学会機関誌「天気」に投稿したところ、学会は2度にわたり論文の書き直しをさせ、一部は評価したにもかかわらず「長期的な因果関係の論拠が示されていない」などとして掲載の拒否を決定したという

 槌田氏は、自説を5月の気象学会大会で発表することも求めたが、学会側はやはり「学術的ではない」などという理由で拒否した。このため、槌田氏は精神的苦痛を受けたとして慰謝料100万円を求める訴えを同月27日に提起した。


まず誤解されないように書いておきますが,以下の図式はウソです.

科学者→地球が確実に温暖化していると思っている→温暖化は悪いので止めなければならない→CO2すなわち二酸化炭素の増加に反対している

なんと言っても,物理学者による一般向けの啓蒙書で,以下のようなものがあります.
http://www.amazon.co.jp/%E6%80%AA%E3%81%97%E3%81%84%E7%A7%91%E5%AD%A6%E3%81%AE%E8%A6%8B%E6%8A%9C%E3%81%8D%E3%81%8B%E3%81%9F%E2%80%95%E5%98%98%E3%81%8B%E6%9C%AC%E5%BD%93%E3%81%8B%E6%B0%97%E3%81%AB%E3%81%AA%E3%81%A3%E3%81%A6%E4%BB%95%E6%96%B9%E3%81%AA%E3%81%848%E3%81%A4%E3%81%AE%E4%BB%AE%E8%AA%AC-%E3%83%AD%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%88-%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%83%AA%E3%83%83%E3%82%AF/dp/4794216629

第6章 地球温暖化は本当に心配すべきなのか?
(一章全てほとんど略)
ここまでのすべてを考慮して,いま地球温暖化を過度に心配する必要はないとの考えには,インチキ度1の評価を与えたい.
しかし,この問題は注意深く見守る必要がある.
(後略)

(p. 234)

ここで,「インチキ度」とは,以下のように説明されています.

0から4までのインチキ度にもとづく私の新しい判定法では,0は証拠にもとづいてその考えが真実であることがかなりの程度まで確信できることを意味し,4はその考えには信頼できる証拠がまったくないことを意味する.

(p.13)

つまり,インチキ度1=地球温暖化を過度に心配する必要はないという論説は,かなり信頼できると書かれています.

ただし,既に気付かれたと思いますが,地球温暖化がウソ」とは全く書いておりません

なお,次の本にも,「地球温暖化論争」という節がありますので,御参照頂けますと幸いです.
http://www.amazon.co.jp/%E3%82%8F%E3%81%9F%E3%81%97%E3%81%9F%E3%81%A1%E3%81%AF%E3%81%AA%E3%81%9C%E7%A7%91%E5%AD%A6%E3%81%AB%E3%81%A0%E3%81%BE%E3%81%95%E3%82%8C%E3%82%8B%E3%81%AE%E3%81%8B%E2%80%95%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%81%E3%82%AD-%E3%83%96%E3%83%BC%E3%83%89%E3%82%A5%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%82%B9-%E3%83%AD%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BBL-%E3%83%91%E3%83%BC%E3%82%AF/dp/4072289213


さて,話は戻りまして槌田論文ですが,

http://env01.cool.ne.jp/ss02/ss023/ss0231.htm
序文でいきなり,

 CO2温暖化脅威説は,たとえば南極ボストーク基地における氷床の調査により,大気中のCO2濃度と気温とが過去22万年にわたって関係があることなどを根拠にしている.しかし,2つの現象が長期にわたって関係するとき,どちらが原因でどちらが結果なのか,または別に本質的な原因があって,この両者はともにその結果なのか,その考察をすることなく,人々はCO2濃度上昇で気温が上がると信じ,その対策を一大国際政治課題にしてしまった.これにより,寒冷化説をとりつづける地道な学者は,研究費が得られず,また研究してもこれを発表する場をレフェリー制度によって奪われ,さらに圧倒的に多い温暖化論者の前に意欲を失い,沈黙を余儀なくさせられたように見える

...まさかこれ,本当に論文誌にそのまま投稿した文章ではないでしょうね...こんなの投稿したら,論文誌の品位が疑われますから,そりゃ落とされますよ...

ふと,古典的名著を紐解いてみましょう.
http://www.amazon.co.jp/%E5%A5%87%E5%A6%99%E3%81%AA%E8%AB%96%E7%90%86%E3%80%881%E3%80%89%E2%80%95%E3%81%A0%E3%81%BE%E3%81%95%E3%82%8C%E3%82%84%E3%81%99%E3%81%95%E3%81%AE%E7%A0%94%E7%A9%B6-%E3%83%8F%E3%83%A4%E3%82%AB%E3%83%AF%E6%96%87%E5%BA%ABNF-%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%B3-%E3%82%AC%E3%83%BC%E3%83%89%E3%83%8A%E3%83%BC/dp/4150502722

(3) 彼は自分が不当に迫害され,差別待遇を受けていると信じる.公認の学会は彼に公演させることを拒む.雑誌は彼の論文を拒否し,彼の本を無視するか,「敵」にわたしてひどい書評を書かせる.ほんとうに卑劣なやり方である.(以下略)

(p. 32)


閑話休題.槌田論文の最初の主張です.

 多くの研究者は,大気中のCO2濃度の増大が気温を上昇させるという.しかし,事実は逆である.ハワイのマウナロア観測所でのCO2の長期観測者として知られるC.D.Keelingグループの研究によれば,図1に示すように,気温の上がった半年〜1年後にCO2が増えている[1].

あいにく,引用元の原論文が今は読めませんので2次批評になってしまいますが,「図1に示すように,気温の上がった半年〜1年後にCO2が増えている」とは全く見えません.
図に矢印が入っていますが,それはちょうど「気温の上がった半年〜1年後にCO2が増えている(もしくは減っている」ようになっている箇所ばかりです.それ以外は,無関係のようだったり(1981年の気温の極大値とか),主張とは逆にCO2濃度の方が先に高くなったり(1966年〜1967年頃のCO2濃度の極大値)とか,要は自説に都合のいいところだけ取り上げています.

ここで次の本の一部を引用します.
http://www.amazon.co.jp/%E9%99%B0%E8%AC%80%E8%AB%96%E3%81%AE%E7%BD%A0-Trap-Conspiracy-Theories-%E5%85%89%E6%96%87%E7%A4%BE%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%83%91%E3%83%BC%E3%83%90%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9/dp/4334934072

  1. 証言をトリミングし改竄する.特定少数の証言のみを紹介する
  2. 写真・映像の説明を事実と変える.自説に都合のいい物証のみを紹介する

(以下略)

(p. 142)
だいたい,この図は日本語で,気温の単位もセッシですから,明らかに引用元の論文の図ではなく,槌田敦氏が描いたものでしょう.


面白いところは,実に正しいことも書いているところです.

もしも,文明批判が目的であれば,結果として発生するCO2を論ずるのではなく,石油など資源の大量使用を直接論ずるべきである.

その通りです.

このことは,とくに,原子力発電の推進根拠の失敗に現れている.原子力発電所には,小さな重油タンクがあるだけだから,発電時にはCO2をほとんど出さないと説明される.しかし,この発電時以外のところで大量のエネルギーが投入されており,原子力発電はCO2を大量に発生している.

いや,全くその通り!


しかし...

 生命は、なぜ、その活動を維持できるのか。この問題の答えは、開放系の熱学を学ぶことによって得られる[9]。いわゆる、エンジンの理論である。地球環境もこのエンジンの法則の範囲の中にあるから、これらの問題を議論するにはこの開放系の熱学が必要不可欠である。
 また、人間社会もこのエンジンの法則により維持されている。このエンジンは、需要があれば供給すると儲かるという欲望の法則によって動いている。これを無視して環境問題や人間社会を論ずると、CO2温暖化やO3ホールだけでなく、中途半端な議論に明け暮れ、その結果は、大気汚染や自由貿易原発など本質的な環境破壊行為を見逃し、これをますます悪い方向に広げることになる[11]。現状は残念ながらそのとおりである。

結論は,トンデモなのです.ここで引用されている文献,[9][11]は,槌田敦氏本人の著作であり,なんの根拠にもなっておりません.([9]は,科学専門書で著名な朝倉書店の発行!)

章立てで見ると,最初が

1.気温の変化がCO2濃度の変化に先行する

で,なぜ結論が

15. 環境問題を正しく理解するには、開放系の熱学が必要

となるのか,さっぱり分かりません.

新聞報道されて,真に受ける人がいないことを祈るのみです.