オイラー by siam REVIEW
2008年3月号のsiam REVIEWが届きました.
SIAM REVIEW, Vol. 50, No.1
SIAM Review
面白かったのは,次の記事です.
W. Gautschi, Leonhard Euler: His Life, the Man, and His Works,
SIAM REVIEW, Vol. 50, No. 1, pp. 3-33, 2008.Abstract
On the occasion of the 300th anniversary (on April 15, 2007) of Euler's birth, an attempt is made to bring Euler's genius to the attention of a broad segment of the educated public. The three stations of his life-Basel, St. Petersburg, and Berlin-are sketched and the principal works identified in more or less chronological order. To convey a flavor of his work and its impact on modern science, a few of Euler's memorable contributions are selected and discussed in more detail. Remarks on Euler's personality, intellect, and craftsmanship round out the presentation.
SIAMの総合国際会議での,オイラー生誕300年記念の講演をまとめたものらしく,上のアブストラクトと,講演のムービーが無料で取得できます.
Leonhard Euler: His Life, the Man, and His Works
30ページほどのレビュー論文ですが,中身が濃いです.オイラーの伝記としてとても面白いです.
まず,写真が豊富です.オイラー自身のモノクロ及びカラーの肖像画の写真が三枚.その他にもオイラーが習ったヨハン・I・ベルヌーイ公の肖像画,オイラーを招聘したフリードリッヒ2世,キャサリン2世の肖像画,沢山のオイラーの著作(の復刻版)の写真が掲載されています.
イントロダクションのあと,第2章7ページほどをかけてオイラーの生涯が紹介されています.が,ここまでは数学者の伝記でも読める(かもしれない)内容です.
数理科学の学術誌に載った価値があるのは何と言っても第3章.タイトルは「His Works.」です.
概略が紹介された後,いくつかのオイラーの有名な業績についての解説が入ります.
まず最初は,リーマンのゼータ関数の特殊な場合の値(「Basel Problem;バーゼル問題」というタイトルでした)についてです.
そう,例の驚愕すべき式です.1735年に証明されたとのことです.
もう少し一般的に,の場合もオイラーが証明しました.ベルヌーイ数が出てきたりTeX形式で式を書くのが大変なので式は省略しますが.
次も驚嘆するほか無い,ゼータ関数と素数についての関係についてです.1737年の発表とのことです.
続いて階乗を拡張したガンマ関数について,オイラー定数についてと代数学,解析学の話題が紹介されて,トポロジーに行きます.
例の「ケヒニスブルクの橋」の問題が紹介されます.1735年に解かれたとのことです.
トポロジーよりも,グラフ理論として紹介されることの方が多いかもしれません.
さらに現代で言う物理学になる,弾性体のオイラー荷重(「Euler's Buckling Formula; オイラーの座屈公式」というタイトルでした)について,そしてオイラーの流体の理論と続きます.
まだまだ続きます.
「Euler's Polyhedral Formula;オイラーの多面体公式」1758年と言うことで,実は任意次元の単体分割に拡張できる公式が紹介されています.
頂点の数-辺の数+面の数=2
というヤツです.
もちろん高次元への拡張についても簡単に述べられていました.0次元単体から始まって,符号をプラス・マイナスと変えながら加算し,最後に種数(穴の数)を足すと必ず不変量になるというものです(オイラー票数).
さらに80年代頃から大いに話題になったq-理論について,それからオイラー関数を使った一般化フェルマーの小定理,母関数(Generating Function)を用いた自然数の分割という有名な話題,最後にオイラーのギア,オイラーの円盤という話題が紹介されます.最後の二つについては,私は知りませんでした...
ところで,オイラーの伝記について,一度調べてみたいと思っていることがあります.恐らくは後世の作り話であろう,ディドロとの対決の時の数式についての統計です.
大量の有名な数学史の本,例えばベルの
Amazon CAPTCHA
なんかが出てこないので,出てきた最近の本からの引用で勘弁して下さい.
例えば,
http://www.amazon.co.jp/%E5%A4%A9%E6%89%8D%E6%95%B0%E5%AD%A6%E8%80%85%E3%81%9F%E3%81%A1%E3%81%8C%E6%8C%91%E3%82%93%E3%81%A0%E6%9C%80%E5%A4%A7%E3%81%AE%E9%9B%A3%E5%95%8F%E2%80%95%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%AB%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%81%AE%E6%9C%80%E7%B5%82%E5%AE%9A%E7%90%86%E3%81%8C%E8%A7%A3%E3%81%91%E3%82%8B%E3%81%BE%E3%81%A7-%E3%83%8F%E3%83%A4%E3%82%AB%E3%83%AF%E6%96%87%E5%BA%ABNF%E2%80%95%E6%95%B0%E7%90%86%E3%82%92%E6%84%89%E3%81%97%E3%82%80%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%BA-%E3%82%A2%E3%83%9F%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%BBD-%E3%82%A2%E3%82%AF%E3%82%BC%E3%83%AB/dp/415050282X
によると,
ロシアのエカテリーナ二世が即位しオイラーを再びサンクト・ピーテルブルッツのアカデミーに招くと,彼は喜んで戻っていった.その頃,フランスの無神論者で哲学者のデニ・ディドロがエカテリーナの宮廷を訪れていた.女帝は神の存在についてディドロと論議するようオイラーに求めた.ディドロはこの有名な数学者が神の存在を証明したと聞かされていた.オイラーはディドロに近づくと,重々しい声でこう述べた.
「先生,a+b/n=x,ゆえに神は存在する.ご返答願いたい」ディドロは数学について何一つ知らなかったので反論もできず,ただちにフランスへ帰国した.
オイラーはどんな問題でも解いてしまうと評判をとり,しかもその才能は科学の領域にとどまらないものと思われていた.女帝エカテリーナの宮廷に勤めていたときのこと,彼は偉大なフランスの哲学者ドニ・ディドローと知り合った.ディドローは筋金入りの無神論者で,ロシア人たちを無神論に改宗させようと日々奮闘していた.これに腹をたてたエカテリーナは,罪深いフランス人のけしからぬ行いを止めさせてくれるようオイラーに頼んだのだった.
オイラーはしばらく思案したのち,神の存在を代数的に証明したと言い出した.エカテリーナはオイラーとディドローを宮廷に招き,神学論争を行うから聞きにくるようにと廷臣たちを招集した.オイラーは聴衆の前に立ち,もったいぶったようすでこう述べた.
「閣下,(a+b^n)/n=x,ゆえに神は存在します.いかがか!」
代数学の素養のないディドローがヨーロッパ随一の数学者に反論できるはずもなく,彼は無言でその場を立ち去った.面目を失ったディドローはサンクトペテルブルグを離れ,パリに帰ってしまう.
こんな感じに,オイラーが提示したと言われる式が,何となく似ているとはいえ,10冊の本があれば8通りくらいの種類が出るんですね.似てるのは,左辺に分数があり,右辺は単純な変数か加算式くらいなものです.
なので,大部分は創作話だろうと思いつつも,何か真実を伝えるものが混じっていないか調べてみたいと思っています.
エカテリーナ女帝はそのころ,フランスの高名な哲学者にして無神論者でもあるドニ・ディドロを客人として招き,もてなしていた.ディドロはつねづね数学を酷評するきらいがあり,数学は経験になにものをも加味せず,せいぜい人間と自然とのあいだに帳をかけるくらいのことしかできない,といってはばからなかった.だがエカテリーナ女帝は,じきにこの客人を厄介者扱いしはじめた.ディドロが数学を蔑んだからではなく,廷臣たちの宗教心を揺るがそうとしたからだ.すぐにオイラーが宮廷に呼ばれ,このしゃくに障る無神論者の口を封じたいので手を貸してほしいといわれた.オイラーはエカテリーナの庇護にたいする感謝の気持ちを表すべく,並み居る宮廷人の面前で,大真面目な顔をしてディドロにいった.
「お客人,(a+b^n)/n=xであるからして,神は存在するのです.さあ,あなたのお考えはいかに」
この数学からの猛攻を前に,ディドロはさっさと退却したといわれている.
このソートイの著書の数式は,サイモン・シンの著作の数式と同じですね.