証拠が無いのに死刑判決

本日,日本で一番の話題だった,例のヤツです.
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20090421-OYT1T00609.htm

 1998年に4人が死亡した和歌山市の毒物カレー事件で殺人罪などに問われ、1、2審で死刑判決を受けた元保険外交員・林真須美被告(47)の上告審判決が21日、最高裁第3小法廷であった。

 那須弘平裁判長は、「食物に毒物を混入した無差別の大量殺傷は極めて悪質で卑劣、残忍。社会に与えた衝撃も甚大で、死刑を是認せざるを得ない」と述べ、林被告の上告を棄却した。林被告の死刑が確定する。

 同小法廷の裁判官5人による全員一致の意見。

 判決によると、林被告は98年7月25日、和歌山市園部の自治会主催の夏祭りでカレー鍋にヒ素(亜ヒ酸)を入れ、カレーライスを食べた住民4人を急性ヒ素中毒で殺害し、63人に重軽症を負わせた。自白など直接的な証拠はなく、弁護側は無罪を主張。上告審では、犯行当日の林被告に関する目撃情報やヒ素の鑑定結果など、状況証拠の評価が争点となった。

 判決は、〈1〉カレー鍋から検出されたものと同じ特徴のヒ素が林被告宅などから発見された〈2〉林被告は、頭髪から高濃度ヒ素が検出されており、ヒ素を扱ったと認められる〈3〉林被告だけがヒ素を入れる機会があり、カレー鍋のふたを開けるなど不審な行動をしていた――などの状況証拠を挙げ、「被告が犯人であることは合理的な疑いを差し挟む余地がない程度に証明されている」とした。

そう,上の記事にあるとおり,物的証拠が今のところ何も無いにも関わらず,極刑が言い渡されたのです.証拠が無いことは検察側や判決でも,記事で「自白など直接的な証拠はなく
とあるように認められております.「など」と書かれておりますが,自白はおろか,証拠となる書類や証言,遺物,道具といったものが,何一つないのです.


判決前文は,産経新聞によります.

 林真須美被告に対する殺人、殺人未遂、詐欺事件の判決は次の通り。

 【主文】

 本件上告を棄却する。

 【理由】

 弁護人安田好弘ほかの上告趣意のうち、判例違反をいう点は、事案を異にする判例を引用するものであって、本件に適切でなく、その余は、憲法違反をいう点を含め、実質は単なる法令違反、事実誤認の主張であって、刑訴法405条の上告理由に当たらない。

 なお、所論にかんがみ記録を精査しても、本件につき、刑訴法411条を適用すべきものとは認められない。

 すなわち、原判決の是認する第1審判示第1の殺人、殺人未遂の事実は、自治会の夏祭りに際して、参加者に提供されるカレーの入った鍋に猛毒の亜砒酸を大量に混入し、同カレーを食した住民ら67名を急性砒素中毒にり患させ、うち4名を殺害したが、その余の63名については死亡させるに至らなかったという事案(以下「カレー毒物混入事件」という)であるところ、被告人がその犯人であることは、(1)上記カレーに混入されたものと組成上の特徴を同じくする亜砒酸が、被告人の自宅などから発見されていること、(2)被告人の頭髪からも高濃度の砒素が検出されており、その付着状況から被告人が亜砒酸などを取り扱っていたと推認できること、(3)上記夏祭り当日、被告人のみが上記カレーの入った鍋に亜砒酸をひそかに混入する機会を有しており、その際、被告人が調理済みのカレーの入った鍋のふたを開けるなどの不審な挙動をしていたことも目撃されていることなどを総合することによって、合理的な疑いを差し挟む余地のない程度に証明されていると認められる(なお、カレー毒物混入事件の犯行動機が解明されていないことは、被告人が同事件の犯人であるとの認定を左右するものではない)。

 また、その余の事実についても、被告人の犯行(一部は夫、健治との共謀による犯行)と認めた第1審判決を是認した原判決は、正当として是認することができる。

 本件は、上記カレー毒物混入事件のほか、いわゆる保険金詐欺にかかる殺人未遂事件および詐欺からなる事案であるところ、とりわけ、食物に毒物を混入して無差別の大量殺傷を敢行したカレー毒物混入事件の罪質は極めて悪く、態様の卑劣さ、残忍さも論をまたない。

 殺害された被害者は、夏祭りを主催した自治会の会長(当時64歳の男性)および副会長(同53歳の男性)と、女子高生(同16歳)および小学生の男児(同10歳)であるが、いずれも何ら落ち度がないのに、楽しいはずの夏祭りの最中、突如として前途を断たれたものであって、その無念さは察するに余りある。遺族らの処罰感情が極めて厳しいのは当然のことである。

 また、最悪の事態は免れたものの、生死の境をさまよった重症者も多数に及び、その中には長期間後遺症に苦しんでいる者も存するのであって、その結果は誠に重大であるところ、同事件が、地域社会はもとより、社会一般に与えた衝撃も甚大であるといわなければならない。

 そして、被告人は、カレー毒物毒物混入事件に先立ち、長年にわたり保険金詐欺にかかる殺人未遂などの各犯行にも及んでいたのであって、その犯罪性向は根深いものと断ぜざるを得ない。しかるに、被告人は詐欺事件の一部を認めるものの、カレー毒物混入事件を含むその余の大半の事件については関与を全面的に否認して反省の態度を全く示しておらず、カレー毒物混入事件の遺族や被害者らに対して、慰謝の措置を一切講じていない。

 以上のような犯情などに照らせば、被告人の刑事責任は極めて重大であるというほかないから、カレー毒物混入事件における殺意が未必的なものにとどまること、前科がないことなど、被告人のために酌むべき事情を最大限考慮しても、原判決が維持した第1審判決の死刑の科刑は、当裁判所も是認せざるを得ない。

 よって、刑訴法414条、396条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

 平成21年4月21日

 最高裁判所第3小法廷

いまさら書くまでもありませんが,判決で述べられている理由の3点,

被告人がその犯人であることは、(1)上記カレーに混入されたものと組成上の特徴を同じくする亜砒酸が、被告人の自宅などから発見されていること、(2)被告人の頭髪からも高濃度の砒素が検出されており、その付着状況から被告人が亜砒酸などを取り扱っていたと推認できること、(3)上記夏祭り当日、被告人のみが上記カレーの入った鍋に亜砒酸をひそかに混入する機会を有しており、その際、被告人が調理済みのカレーの入った鍋のふたを開けるなどの不審な挙動をしていたことも目撃されていること

は,いずれも死刑判決の材料とは成り得ません.

1. 上記カレーに混入されたものと組成上の特徴を同じくする亜砒酸が、被告人の自宅などから発見されていること

亜砒酸は,事件があった和歌山県のミカン農家でもシロアリ駆除に使われていたことは,当時の報道を読んでも,今現在,ググってもすぐに分かります.当初,疑われた判決を受けた被告の夫がシロアリ駆除を職業としていたことから,「被告人の自宅から発見」されても何の不思議もありません

2. 被告人の頭髪からも高濃度の砒素が検出されており、その付着状況から被告人が亜砒酸などを取り扱っていたと推認できること

もしも,判決の被告人以外の「いかなる身近に暮らす人からも検出されなかった」というなら,被告人が怪しいと思えるでしょうが,そのような調査結果は発表されておりません.
また,報道では物理学の道具であるSPring-8を使って「証拠だ」としていますが,SPring-8のサイト
http://www.spring8.or.jp/ja/support/contact/faq
によると,

(7-1)和歌山毒物カレー事件の砒素分析はどのビームラインで、どの様に行われたかのでしょうか?

 最初の測定は、高エネルギー非弾性散乱ビームラインBL08Wで行われました。2回目の測定は、BL08Wと磁性材料ビームライン(当時の名称は生体分析ビームライン)BL39XUを使って行われました。

いずれの測定も、放射光を使った蛍光X線分析という方法で行われました。物質にX線を照射すると元素固有のX線が発生するので、そのX線の種類(エネルギーまたは波長)と量を測定することにより、物質に含まれる元素の種類と量を知ることができます(蛍光X線分析法)。しかも、微量に含まれる元素を検出できることがこの方法の特徴です。
  和歌山毒物カレー事件の場合は、亜砒酸に含まれる特定の不純物元素の量を比較して亜砒酸の異同識別をしました。また、この方法により、素材の産地を特定することもできます。
  SPring-8のX線を使うと今まで出来なかった重元素の分析ができるのですが、この特徴が亜砒酸 の異同識別を可能にしました。というのは、アンチモン(Sb)やビスマス(Bi)のような重元素不純物を検出する必要があったからです。

と,要は「ほぼ同じ種類のものであったことが分かった」という程度のもので,「素材の産地」と言うのなら,被告の近辺のミカン農家で使われていた亜砒酸と比較調査をSPring-8でやっても,同様な結果が出ることでしょう.

3. 上記夏祭り当日、被告人のみが上記カレーの入った鍋に亜砒酸をひそかに混入する機会を有しており

ウソです.
目撃は二転三転していることは当時の報道を見ても明らかで,「被告人のみが」というのは,ウソも甚だしいものです.
事件から一年後の1999年,ワニマガジン社から発売されたムックにはこのように書かれています.

ついに,「カレー事件の目撃者」の第一報が出た.「週刊ポスト」の「少女は見た」である.現場の張り込み記者たちの間で有名な小学生の女のコがヒ素を混入した瞬間を見たという記事だ.

誰でも知っているだけに現場は大騒ぎだが,これは「女のコが周囲が気をもむのを見かねて,自分が見たと言い出したが,後に本当は見ていないことがわかり,捜査員に怒られたらしい」.

それにしても,小学生にだまされる記者っていったい......

全く,恐らくは小学生にだまされる最高裁判所っていったい.......というのが事実だろうと,私は考えております.


証拠が全く無いのに,死刑判決.
何が治安が良い国なのか,何が科学立国なのか.全部ウソだろうと思えてしまいます.ってか,ウソなんでしょう.
「予言書無しに予言解読をする某天才作家」と,日本の警察・司法は同レベルなんでしょうねぇ.