証拠が無いのに死刑判決(3)

前回,死刑判決の理由となった主な三点について疑問点を書いたのですが,
証拠が無いのに死刑判決(2) - なぜか数学者にはワイン好きが多い

その主要な点について,私の考察なんぞ超越する記事がありました.
冤罪File No.6」です.
http://www.amazon.co.jp/%E5%86%A4%E7%BD%AAFile-%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB-2009%E5%B9%B4-06%E6%9C%88%E5%8F%B7-%E9%9B%91%E8%AA%8C/dp/B0026KWB86/ref=pd_sim_b_1/375-1142626-0897912

もっとも,記事を読んでも,参考文献等がなく,一次情報源が確認できなかったので,あくまで「このような意見を持っているジャーナリストがいる」と紹介するにとどめることを予め述べておきます.


まず,私がこう書いた点.

1. カレーから検出されたヒ素と、林被告の自宅などにあったヒ素には同一性がある。

最も「科学的証拠」なので最初に持ってきたと思われますが,最も怪しい点です.第一に,科学的検証では常識である「複数の異なるチームによる同一条件での検証」が行われておりません. こんなものは,科学界では絶対に認められません.仮に,日本の国立天文台が「シリウス星人からのメッセージであることが確実な信号を受信した」と主張しても,他の組織で再確認されないと科学界では認められません.同様に,「ヒ素の同一性」がSPring-8で確認されたとしても,他の組織から追試されないと,科学界でも認められません

冤罪Fileの記事によると,「同一性がある」のは,次の6点だといいます.

  1. 被告人夫婦の自宅から発見されたプラスチック容器に付着していたヒ素
  2. 被告人夫婦の旧宅から発見されたヒ素
  3. 事件の3年前に被告人夫婦から被告人の実兄が譲り受けていたヒ素
  4. カレー鍋に混入されていたヒ素
  5. 犯人がカレー鍋に注ぐ際に使ったと見られる紙コップから検出されたヒ素

書いてて馬鹿馬鹿しくなってきましたが...気を取り直しまして.


まず,「被告人夫婦の自宅から発見されたプラスチック容器に付着していたヒ素」については,写真付きで記事に載っていますが,「白アリ」と見えます.不鮮明で見えませんが,著者によると「白アリ薬剤」と書かれているとのこと.これを,二審判決では「内容物を洗い流したり,他の入れ物などに紛らせておくなど,可能な限りの罪証隠滅をしていたと評価して差し支えない」と述べたそうですが,隠滅するのに「白アリ」って書いた容器を置いておきますかねぇ.



さて,主観的な意見なので前回は書かなかったのですが,最も私が疑わしいと思っていたことが,記事にも書かれていました.それは,「当時の最新鋭の科学的機材SPring-8による鑑定」です.私はこう書きました.

ヒ素の同一性」がSPring-8で確認されたとしても,他の組織から追試されないと,科学界でも認められません

私の感想と一致していることは認めますが,内容がきわどいので,記事の文章を引用するに留めます.
主観的な意見と事実を混同して後日誤りとなると,私の研究者人生が無になりますので.
なので,以下,冤罪File誌No. 06 p. 26からの引用です.

この裁判では,計3回の鑑定結果などを総合的に判断して,すべてのヒ素の「同一性」を認めたような体裁を整えているが,結局,その認定は,1人の中立性に欠ける大学教授に依存しているだけである.

東京理科大の教授ということだけ書いて,氏名や詳しい所属等は書きません.一次情報源で確認が取れてませんので.
でも,私自身が

最も「科学的証拠」なので最初に持ってきたと思われますが,最も怪しい点です.第一に,科学的検証では常識である「複数の異なるチームによる同一条件での検証」が行われておりません. こんなものは,科学界では絶対に認められません.

と書いた通り,関係科学者・研究者が極めて少なく,限りなく怪しいとは思っています.

まだまだ怪しい点があるのですが,いくらでも長くなりますので,今回はこの辺で.