記事「溝口紀子さんの猿橋賞受賞に寄せて」

日本数学会の「数学通信」2011年8月号が届いたが,この春の猿橋賞受賞の溝口博士へのコメントが凄い.
日本数学会・WEB広報・溝口紀子会員の第31回(2011年)猿橋賞受賞について

溝口紀子会員(東京学芸大学教育学部自然科学系・准教授)が 第31回(2011年)猿橋賞 を受賞されます。授賞題目は「爆発現象の漸近解析」です。日本数学会より、心からお慶び申し上げます。

微分方程式を数値積分する過程において,解が爆発することを推定したり爆発点を除去したりする研究は私もしていましたが,溝口さんの研究は純粋な解析的なものだったので,論文を読んでも理解するのに苦労します.
短いアブストラクトが,例えばこちらにあります.
Blowup Rate of Type II and the Braid Group Theory
「Type IIのブローアップ比とブレイド理論」
Blowupといえば,広中平祐さんや石井志保子さんに受け継がれる特異点解消の伝家の宝刀.概略なのでブレイドの単語が論文の中にはタイトル以外には一度も現れませんが...
内容に踏み込むときりがないので,東工大の柳田さんの溝口さんへのコメントに話を戻しますと,次のような絶賛の嵐です.

(前略)
溝口さんとの共同研究の成果は今回の受賞と直接の関係はないが,数年にわたる共同研究を通じて感じたことを記したいと思う.一緒に仕事を始めてすぐにわかったことは,彼女は圧倒的な腕力と集中力の持ち主であるということである.面倒を厭わずに見通しの悪い計算を一気に乗り切るパワーはまさにブルドーザーのようであり,非力で面倒なことがきらいな私は半ばあきれながらも必死についていった.
(中略)
さらにしばらくして気付いたのは,彼女が私と(そしておそらく他のどの人とも)異質な数学的感覚を持っているということである.
(中略)
爆発後の会の挙動に関する研究は溝口さんの業績のほんの一部にすぎず,この他にも爆発解の発散のオーダーや自己相似解の構造などについて立て続けに重要な結果を得ている.2004年9月に開催された研究集会「First Euro-Japan Workshop on Blowup」における溝口さんの講演は圧巻で,いくつかの未解決問題に対して決定的な解凍を与えた凄まじい内容のものであった.講演後,参加者の一人でこの分野の指導的研究者であるJuan Luis Vazquez(ICM2006の全体講演者)が,「長年,知りたいと思っていたことが全部わかってしまった」と興奮しながら絶賛していたのをよく覚えている.
(後略)

現場の雰囲気が伝わってきて面白い記載でしたが,もう少し具体的な記述も欲しかったところです.
ただ,他の記事が注釈や参考文献が豊富だったことから,逆にこの柳田さんのコメント記事は違う意味で啓蒙的で面白かったと言えるかもしれません.