ベビーブームは来ない

まったくしょーもない...

震災下 非常時に女性は男性を受け入れやすいと竹内久美子氏│NEWSポストセブン

震災後、突然女性からメールがよく来るようになった――そんな男性からの声が聞こえるようになったが、動物行動学的見地から見ても、震災などの非常時において、女性が男性を受け入れやすくなっているという事象は確認できる。動物行動学研究家で『女は男の指を見る』(新潮新書)の著者である竹内久美子氏がいう。

「1965年、ニューヨークを中心とするアメリカ北東部では大停電が起こり、3000万人もの人々が暗闇の中で一夜を過ごしました。その270日後にベビーラッシュが起こったことが知られています。2005年にアメリカ南部を襲ったハリケーンカトリーナ”の後にも、同様のことが起こりました。

このトンデモない報道は多数のWebマスゴミサイトでミラーされています.
非常時に女性は男性を受け入れる (2011年4月14日掲載) - ライブドアニュース
http://news.ameba.jp/20110414-16/
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20110414-00000007-pseven-soci
http://news.www.infoseek.co.jp/postseven/society/story/postseven_17350/

間に受けている人もいるようです.
震災時 女性が変わる? | つれづれ日記 - 楽天ブログ

なるほどと思う記事で、確かに異常事態が起こった時など女性が男性を頼もしく思ったり、見直したりもするようだ。1人身の女性が震災時に心細く思い、結婚相手を探し始めたり
するのも十分有りうる。この話は結婚相手が見つからず嘆いてる男性には、大きなヒントになりそうだ。


直接には間に受けていない人もいるようです.
震災と結婚:政治学に関係するものらしきもの

最初に専門用語を持ってきて、その後で、それを平易に解説して自説を展開するという、いつものパターン通りの、如何にも典型的な彼女らしい文章です。かなり短い記事なので、もしかすると割愛されている部分があるためかわかりませんが、これだけでは、「自然排卵」と「交尾排卵」の関係が不明ですし、「交尾排卵」と「大きな不安や恐怖が刺激」となることの関係もよくわかりません。

竹内久美子氏のトンデモなさ過ぎについては,既に初代「トンデモ本の世界」で取り上げられているので置いておくとして,こんな報道をバラまく時点でネット上でもマスコミのレベルが以下に低いかが分かるというものです.


まず第一に,歴史的事実として取り上げられている1965年の大停電後のベビーブーム(竹内氏は「ベビーラッシュ」と述べているとされている)は,都市伝説であることが示されています.

国内では,「死体洗いのアルバイト」の著者でWebサイト「医学都市伝説」の運営者が,2003年に記事を書いておられます.
まとまっている上に,サイト更新停止宣言をされてサイトがいつ無くなるか分からないので,長いですが全文引用させて頂きます.

2003年08月19日 大停電とベビーブーム [都市伝説・デマ・トンデモ]

さる8月14日(現地時間)、合衆国とカナダの一部で起こった大停電は、幸いなことにそれほどの二次的パニックにもいたらず、めでたく復旧にいたったのはご存知の通り。よその国に大義名分付けて爆弾投げつけゲームしているあいだに、自分のところのインフラが少々立ち遅れてしまったのが、その原因だというのが笑えるところ。もっとも、冷夏がなければ、もっとひどいことになっていたかもしれない国もあるわけで、あまり人のこともいえないのだけれど。

こういう大停電があると、必ずいわれるのが「ベビーブーム」との関連である。これは1965年に起こったNY大停電の翌年8月、ニューヨーク・タイムズが「ニューヨークでは時ならぬベビー・ブームが巻き起こっている」と報道したのが、はっきりとした記録では最初とのことだ。77年の停電でも同様の噂(というより、事実そのものとして)があり、かの9/11テロのあとでも、ちょっと雰囲気を変えて主張されている。

1966年8月10日、マーチン・トルチン記者による「停電から9ヵ月後、出生率が上昇」という記事がまず書かれた。ニューヨークのいくつかの病院、地域でいままでの記録以上の新生児が生まれているというのである。「電気がつかないので、人々は結びつきを深めるしかなかったのだろう」という社会学者のコメントがそれに添えられていた。翌日もその補足記事が書かれたが、12日に追加された記事はちょっとニュアンスが変わっていた。

出生率は次第に正常化」と題されたその記事では、いつにない出産増がみられた病院は一部だけで、大半の病院の出産数は平年並かそれ以下であったとされている。そして、専門家の意見として、「8月はいつも出産数が多くなるもので、停電で出生率が上がったというのは、たんなる偶然に過ぎない」と、二日前の主張を否定するような内容になっているのである。ちょっと考えれば、真っ暗けになって、ほかの子供がおびえてその世話にかかりきりといった場合だってあるはずで、誰もがみなロマンチックな時間をもてるようになるわけではないのである。たまたま起こった偶然の出来事をとりだし、都合のいい理屈付けをするという典型なのだ。

しかし、その実質的訂正記事にもかかわらず、はじめの主張、「大停電で空前のベビーブーム」という記事内容だけは一人歩きすることになった。多くの人がまるで統計的事実であるかのように、大停電のあとにはベビーブームがくるといい、しかもそれを地震や災害、戦乱などに一般化していったのである。それを統計的に検証して否定する公衆衛生学や産婦人科学の論文が68年、70年、71年に出ているが、全く疑われることもなく流通する俗説に対し、あまりに多勢に無勢という印象は否めない。

いまもこれが疑われずに流通しているのは、今度の大停電でもさっそくこういう発言が責任ある立場の人から出ている事を見ても明らかだろう。こわもてジャーナリストらしいこの人なども、77年の停電について、「9ヶ月後にベビーブームが起きた」と主張しているのである。多分確認などしていないのだろう。東電の技術力を疑う前に、自分の取材力を疑ったほうがよさそう。ほかにも株式コメンテーターが、この夏に予想された停電を前にして、マタニティ関連の株を買うようにすすめるものがあったのも苦笑をさそう。株なんてのは結局、流説を根拠にしたバクチなんだから、この程度の胡散臭い事いってりゃいいわけですな。

都市伝説研究の大御所であるJ.H.ブルンヴァンはその著書「赤ちゃん列車が行く」(新宿書房)のなかで、書名となっている「赤ちゃん列車」伝説について触れている。これは著者がいた大学の既婚者寮の近くにある鉄道が、早朝に貨物列車を走らせるので、轟音で中途半端にたたき起こされた若い夫婦たちが、仕方なく子作りに励むことになり、高い出生率を示すという「大学伝説」である。このパターンはあちこちの街にもあり、ある人などは「朝早く仕事に出かけるストーンヘンジの環状列石を作る人々に起こされたケルト人の夫婦」のバージョンまであるのではないかと、予想しているということだ。

この話と、「停電でベビーブーム」が同じ構造を持っていることは明らかだろう。ブルンヴァンの言を借りれば、「ジャーナリストたちは生き生きとした伝説の魅力に抗い切れないことがある」。もちろん、何にあらがい切れないのかといえば、いい加減なヨタをとばす誘惑に対してなのだが。

(こちらが参照記事。NYタイムズの最初の記事から、70年の公衆衛生論文までちゃんと集めてくれている)

投稿者 webmaster : 2003年08月19日 21:22

「東電の技術力を疑う前に、自分の取材力を疑ったほうがよさそう」などと現在の状況を予言するかのような発言が非常に印象的です.

日本語版のWikipediaには,
1965年北アメリカ大停電 - Wikipedia

ベビーブームに関する神話

この停電の後、ニューヨークでの出生率が大幅に上がったことにある医者が気づき、そのことが新聞ニューヨーク・タイムズで取り上げられた。だが後の調査で、停電時に出生率が上がったとする有意差は見出だせないという結果が出ている。

しかし大規模停電時に出生率が上がる現象は他にも見出され、1977年にニューヨークで停電が発生したとき、2001年にアメリ同時多発テロが発生したとき、2005年にハリケーンカトリーナニューオリンズに襲来したときなど、他にも様々な災害の襲来のときに出生率が上がり、ベビーブームとなっている。いずれも、数ヶ月で出生率は正常に戻っている。

ある社会学者は、「災害のため、人々は結びつきを深めるために出生率を上げたのだろう」といっている。また、ただの偶然に過ぎないという学者もいる。

とあります.
しかし,英語版のページでは
Northeast blackout of 1965 - Wikipedia

The myth of the blackout baby boom

A thriving urban legend arose in the wake of the Northeast Blackout of 1965, in which it is told that a peak in the birthrate of the blackout areas was observed nine months after the incident. The origin of the myth is a series of three articles published in August 1966 in the New York Times,[4] in which interviewed doctors told that they had noticed an increased number of births.

The story was debunked in 1970 by J. Richard Udry, a demographer from the University of North Carolina at Chapel Hill, who did a careful statistical study that found no increase in the birthrate of the affected areas.

停電時のベビーブームの神話

1965年の北アメリカ大停電では,良く知られた都市伝説が生まれました.それは大停電地域の出生率が停電事故の9ヶ月後に急上昇したというものです.
この伝説の出処は,1966年のNew York Times誌の一連の3つの記事でした.その記事は出生数の如実な増加に気付いた医者にインタビューしたというものでした.

しかしその話は1970年に,ノースキャロライナ大学の人口統計学者リチャード・ユードリが,停電の影響を受けた地域の出生率を注意深く統計的に調べたところ,特別の出生率の増加は無かったことを突き止めることによっってウソであることが暴かれました.

このWikipediaの英語版と日本語版の差の説明は簡単です.どうやら,自称

概要

利用者:Bbctvは、すべての分野、(特に超高層ビル、UFO、宇宙人、UMA、航空機、フライトシミュレーション、企業、映画ターミネーター【特に1と2】、都市)についてを得意分野とする。しかし、テレビ番組などはあまり見ないので、テレビ番組(特に民間放送)についての知識がかけているのが、この利用者の大きな欠点である。しかし、この利用者はNHKや海外のテレビ局は好きだし、民間放送で唯一、アンビリバボーも好きである。

また、まじめではあるが、時々ミスを起こしたり、不祥事を発生させたりと、他人に迷惑をかけてしまうこともある。

という人物が,最初に2006年頃に「1965年北アメリカ大停電」のページを日本語版Wikipediaに追加した際に,自信の意見である「しかし大規模停電時に出生率が上がる現象は他にも見出され」云々という文書を追加し,それが今に至って訂正されていないからのようです.

「1965年北アメリカ大停電」の変更履歴 - Wikipedia

アメリカの全く別なサイトでも同様で,
Blackout Baby Boom A Myth, Duke Professor Says -- ScienceDaily

「停電によってセックスを行ったカップルがいた可能性はあります...しかしそれはベビーブームを構成するにはあまりにはかない一要因に過ぎません.多くのカップルは避妊を行うでしょうし,行っていないにしても,セックス→妊娠→出産のプロセスを多くのカップルが成し遂げる理由を説明するには停電は余りにも貧弱な要因です」
デューク大学社会学者フィリップ・モーガン教授は言う.

ところが困ったことに,他にも都市伝説を間に受けているサイトもあります.

北米大停電 ニューヨーク大停電 ニューヨーク停電 newyork blackout アメリカ・カナダ大停電の教訓

今回の被災地域では65年にも、ナイアガラ付近の停電をきっかけに約3000万人が被災した史上最大の停電が起きた。カナダと米国の発電・送電網は37カ所でつながっており、被害の拡大を防ぐシステムが十分に機能しなかった可能性が高い。また、ニューヨークでは1977年にも落雷による大規模停電に見舞われ、復旧に手間取り3日間も停電しつづけ大きな混乱を招いた。9ヵ月後にはベビーブームが起きたた。

「起きたた」って(笑)

「医学都市伝説」の著者が指摘しているNew York TImes誌では,次のような結論を出しています.
http://www.snopes.com/pregnant/info/black03.htm

Dr. Christopher Tietze, research director of the National Committee on Maternal Health, recalled a month-by-month study of births in the Netherlands that disclosed a sharp rise.

However, he said that he was "deeply skeptical" of any relationship between the blackout and the purported birth rise. "I'll wait until we get all the births in the city," he said.

しかしながら,彼は停電と話題の出生率については,”深い懐疑感”を示しました.

あとはこの1966年のNew York Times誌の記事が実在(上記のものは,過去の紙媒体の記事からWeb用を作成したようです)することが示すことが出来ればよかったのですが,時間が足りません.
ただ,常識で考えても「停電を伴う大災害の9ヶ月後にベビーブームが起きる」ということは考えにくいので,そこまでデバンクする必要も無いかなと思います.

ちょっとWebを検索しただけで分かるので,ウソを垂れ流す前にWebマスコミはウソか本当か確認して欲しいものです.