証拠が無いのに死刑判決(2)

今日は,本日付の読売新聞の社説から,改めて怪しげな点を.
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20090421-OYT1T01104.htm

毒物カレー判決 動機不明でも死刑を選択した(4月22日付・読売社説)

 動機は分からないが、被告が犯人であることに疑いの余地はない。最高裁が、そう判断しての死刑判決である。
(中略)

 1998年、和歌山市内で開かれた自治会主催の夏祭りで、カレーライスを食べた住民4人が死亡、63人が重軽症を負った。急性ヒ素中毒が原因だった。
 犯罪史上、まれにみる無差別殺人である。最高裁も「卑劣」「残忍」と指弾し、「社会に与えた衝撃も甚大である」として、1、2審の死刑判決を支持した。
 カレーから検出されたヒ素と、林被告の自宅などにあったヒ素には同一性がある。被告の毛髪からもヒ素が検出された。被告が鍋のふたを開ける不審な行動が目撃されている。
 最高裁が死刑と結論付けたのは、こうした状況証拠を総合的に判断した結果である。

判決の3項目を一文にまとめていますが,改めて一つずつ.

1. カレーから検出されたヒ素と、林被告の自宅などにあったヒ素には同一性がある。

最も「科学的証拠」なので最初に持ってきたと思われますが,最も怪しい点です.第一に,科学的検証では常識である「複数の異なるチームによる同一条件での検証」が行われておりません. こんなものは,科学界では絶対に認められません.仮に,日本の国立天文台シリウス星人からのメッセージであることが確実な信号を受信した」と主張しても,他の組織で再確認されないと科学界では認められません.同様に,「ヒ素の同一性」がSPring-8で確認されたとしても,他の組織から追試されないと,科学界でも認められません.亜批酸についてはフォトン・ファクトリーでも調査が行われましたが,SPring-8フォトン・ファクトリーでの調査内容は同一ではありません.なんとなく,下山事件の東大と慶應大の鑑定結果の違いを思い出させます.
第二に,SPring-8での調査では,「カレーから検出されたヒ素と被告の自宅などにあった砒素の同一性が確認された」とのことですが,要は「同じ中国産だと思われる」というだけのこと.被告が中国からの砒素輸入の第一人者でも無い限り,中国産の砒素は日本中もしくは世界中にあることでしょう.つまり,「当時,最先端の科学を使った」と言ったところで,何の証拠にもなりません.

2. 被告の毛髪からもヒ素が検出された。

これも怪しい.「被告もヒ素入りカレーを食べて死にそうになっていた」とか,「被告は日ごろからヒ素を摂取して耐性を付けていた」とか「被告の髪が,カレーに混入させようとする砒素に触れたようだ」とでも言うのでしょうか.どれも,ありえねーっす(笑).

3. 被告が鍋のふたを開ける不審な行動が目撃されている。

カレーを作るのに,鍋のふたを開けるのが不審ですか? 仮に,不審だとしましょう.すると,カレーの調理者の中で容疑者は他に多数いるはずです. 仮に,不審でないとしましょう.すると,被告は容疑を受ける理由が一つ消えます

被告が,保険金詐欺や近所とのトラブル,記者に水をかけたり大声で無罪を主張したりといった,時に激しい性格(常に必ず,では無かったらしい)なのは事実と考えて良さそうです.だからといって,単に警察の威信のために死刑にされてはたまったものじゃありません
当時の和歌山警察署の資料によると,事件発生からの延べ捜査員数:約32,000名だそうです.これに,あの水道水をぶちまけるところまで報道したマスゴミ報道ですから,犯人を出さなければとあせったのは当然です.が,だからと言って詐欺罪の犯人を無差別殺人で死刑にして良いというわけではありません.