大江健三郎氏ら勝訴

政府としてはサラッと流して過去の話題としたい雰囲気がぷんぷんしますが...
各新聞社の意見がここまで右から左まで分かれるのも,面白いですね.

最右翼・マイクロソフト産経新聞です.
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/080329/trl0803290218000-n1.htm

【主張】沖縄集団自決訴訟 論点ぼかした問題判決だ
2008.3.29 02:17
このニュースのトピックス:沖縄集団自決

 沖縄戦で旧日本軍の隊長が集団自決を命じたとする大江健三郎氏の著書「沖縄ノート」などの記述をめぐり、元隊長らが出版差し止めなどを求めた訴訟で、大阪地裁は大江氏側の主張をほぼ認め、原告の請求を棄却した。教科書などで誤り伝えられている“日本軍強制”説を追認しかねない残念な判決である。

論外ですね.例えば,次の文章,意味不明です.

 日本軍の関与の有無は、訴訟の大きな争点ではない。軍命令の有無という肝心な論点をぼかした分かりにくい判決といえる。

次,政府広報新聞的な大手新聞社.
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20080328-OYT1T00793.htm

(前略)
 沖縄の渡嘉敷島座間味島の集団自決をめぐっては、戦後、長い間、隊長「命令」説が定説となっていた。沖縄の新聞社が沖縄戦を描いた「鉄の暴風」などが根拠とされた。
 しかし、渡嘉敷島の集団自決の生存者を取材した作家の曽野綾子氏が1973年に出した著書によって、隊長「命令」説は根拠に乏しいことが明らかになった。
 これを受けて家永三郎氏の著書「太平洋戦争」は、86年に渡嘉敷島の隊長命令についての記述を削除している。
 座間味島についても、元守備隊長が自決命令はなかったと主張していることを、85年に神戸新聞が報じた。隊長に自決用の弾薬をもらいに行ったが断られたという女性の証言を盛り込んだ本も、2000年に刊行された。
 一方で、日本軍が自決用の手榴弾を配布したとの証言もある。
 ただ、集団自決の背景に多かれ少なかれ軍の「関与」があったということ自体を否定する議論は、これまでもない。この裁判でも原告が争っている核心は「命令」の有無である。
 原告は控訴する構えだ。上級審での審理を見守りたい。

「日本軍の関与は問題では無い」というマイクロソフト産経に対し,表現を変えますが「命令の有無は問題だが,関与自体は否定しない」と書いている辺り,わずかに最右翼よりはマシです.

その次.右から左への中間を期待したいところですが,Webで社説が見つからなかったので,報道記事からです.
http://mainichi.jp/select/jiken/archive/news/2008/03/28/20080328dde001040069000c.html

 ◇「命令」記述に根拠

 ノーベル賞作家・大江健三郎さん(73)の著作「沖縄ノート」などで、第二次世界大戦沖縄戦で集団自決を命令したとの虚偽の記述をされ名誉を傷つけられたとして、旧日本軍の戦隊長らが大江さんと出版元の岩波書店に対し、出版差し止めと慰謝料2000万円の支払いを求めた訴訟の判決で、大阪地裁(深見敏正裁判長)は28日、請求を棄却した。深見裁判長は「隊長の関与は十分に推認される」とし、名誉棄損にはあたらないと判断した。また、当時の状況などから「集団自決には旧日本軍が深くかかわった」と認定した。
(中略)
 ■判決のポイント■

1 沖縄ノートでは原告梅沢及び赤松大尉の氏名を明示していないが、引用された文献、新聞報道等でその同定は可能である。

2 本件各書籍は、公共の利害に関する事実にかかり、もっぱら公益を図る目的で出版されたものと認められる。

3 梅沢命令説及び赤松命令説は、集団自決について援護法の適用を受けるための捏造(ねつぞう)であるとは認められない。

4 座間味島及び渡嘉敷島ではいずれも集団自決に手りゅう弾が利用されたこと、沖縄に配備された第32軍が防諜(ぼうちょう)に意を用いていたこと、第1、第3戦隊の装備からして手りゅう弾は極めて重要な武器であったこと、沖縄での集団自決はいずれも日本軍が駐屯していた島で発生し、日本軍の関与がうかがわれることなどから原告梅沢及び赤松大尉が集団自決に関与したものと推認できる上、平成17年度までの教科書検定の対応、集団自決に関する学説の状況、判示した諸文献の存在とそれらに対する信用性についての認定及び判断、家永三郎及び被告大江の取材状況等を踏まえると、原告梅沢及び赤松大尉が本件各書籍記載の内容のとおりの自決命令を発したことを直ちに真実であると断定できないとしても、その事実については合理的資料若しくは根拠があると評価でき、家永三郎及び被告らが本件各記述が真実であると信じるについて相当の理由があった。

5 沖縄ノートの各記述は、被告大江が赤松大尉に対する個人攻撃をしたなど意見ないし論評の域を逸脱したものとは認められない。

「判決のポイント」で,1と5を紹介しているのは妥当だと思います.
何とか期待通りです.
(ちなみに,記事には記者の署名もありました.私は署名賛成派ですので,気に入ったというのもありますかも...)

さて,相対的に左翼側に位置する記事です.

http://www.asahi.com/paper/editorial20080329.html

集団自決判決―司法も認めた軍の関与

 太平洋戦争末期の沖縄戦で、米軍が最初に上陸したのは那覇市の西に浮かぶ慶良間諸島だ。そこで起きた「集団自決」は日本軍の命令によるものだ。
 そう指摘した岩波新書沖縄ノート」は誤りだとして、慶良間諸島座間味島の元守備隊長らが慰謝料などを求めた裁判で、大阪地裁は原告の訴えを全面的に退けた。
 集団自決には手投げ弾が使われた。その手投げ弾は、米軍に捕まりそうになった場合の自決用に日本軍の兵士から渡された。集団自決が起きた場所にはすべて日本軍が駐屯しており、日本軍のいなかった所では起きていない。
 判決はこう指摘して、「集団自決には日本軍が深くかかわったと認められる」と述べた。そのうえで、「命令があったと信じるには相当な理由があった」と結論づけた。
 この判断は沖縄戦の体験者の証言や学問研究を踏まえたものであり、納得できる。高く評価したい。
 今回の裁判は、「沖縄ノート」の著者でノーベル賞作家の大江健三郎さんと出版元の岩波書店を訴えたものだが、そもそも提訴に無理があった。
 「沖縄ノート」には座間味島で起きた集団自決の具体的な記述はほとんどなく、元隊長が自決命令を出したとは書かれていない。さらに驚かされたのは、元隊長の法廷での発言である。「沖縄ノート」を読んだのは裁判を起こした後だった、と述べたのだ。
(後略)

同じ裁判結果の報道なのに,ずいぶんと強調箇所が異なるものです.
ただ,「さらに驚かされたのは、元隊長の法廷での発言である。『沖縄ノート』を読んだのは裁判を起こした後だった、と述べたのだ。 」というのは事実だそうです.もう80歳も90歳もなる元軍人の方が敢えて「名誉毀損」と訴えたこと事態が怪しいということです.
確かに,時期的に考えても,なぜ今?と思うのは自然かもしれないと思えます.

さて,最右翼マスコミと政府御用達マスコミを紹介したからには,最左翼の意見も紹介するのが公平でしょう.

こちら,政党御用達どころか,政党そのものの広報誌です.
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik07/2008-03-29/2008032901_01_0.html

沖縄戦訴訟大阪地裁 大江さん側勝訴
検定意見の根拠崩れる

 沖縄戦の「集団自決」での旧日本軍の命令を否定する元日本軍の守備隊長らが、軍関与を指摘した大江健三郎さん(73)の著書『沖縄ノート』などで名誉を傷つけられたとし、同氏と岩波書店を相手に出版差し止めと慰謝料などを求めた訴訟の判決が二十八日、大阪地裁(深見敏正裁判長)でありました。判決は「集団自決」には「日本軍が深くかかわったものと認められる」とし、名誉棄損は成立しないとして請求を棄却しました。

 文部科学省は、この裁判での原告の主張を理由の一つとして日本史教科書の「集団自決」についての記述から「軍の強制」の言葉を削除させる検定意見をつけました。判決によってその根拠が崩れたことになります。

 深見裁判長は元守備隊長の命令自体は「伝達経路が判然としないため認定することには躊躇(ちゅうちょ)を禁じざるを得ない」としました。しかし、多くの体験者が日本軍兵士から手りゅう弾を渡されていたと語っていることなどを挙げ、軍の「深い関与」があったと認定。元隊長らが関与したことは「十分に推認できる」とし、学説状況や文献、大江さんらの取材状況を踏まえると『沖縄ノート』などの記述は「真実と信じるに足りる相当の理由があった」とのべました。

 同裁判は沖縄・座間味島の守備隊長だった梅澤裕氏(91)と渡嘉敷島守備隊長だった元大尉(故人)の弟、赤松秀一氏(75)が、『沖縄ノート』と歴史学者の故・家永三郎さんの著書『太平洋戦争』(いずれも岩波書店発行)で名誉を棄損されたとして起こしました。梅澤さんらは「隊長命令による『集団自決』説はねつ造されたもの」と主張していました。
(後略)

淡々としたものです.

上記のマスコミ報道の中で,主役の大江氏も含めると二人の作家の名前が上がっています.大江健三郎さんと曽根綾子さんです.
思想が反対だからこそ,調査結果も正反対になったとも言えますが,どちらかと言うと...私は数学者ですから,「二次方程式なんて知らなくても生きて来られた」と行って中学校の数学の教科書の改訂を主張した(と言うか,実際に一時期教科書から二次方程式の解の公式が消えた)曽根綾子氏には,好感を持てませんねぇ.