九州大学産業技術数理コンソーシアム
次のようなイベントに参加して来ました.
関係各位
九州大学産業技術数理コンソーシアム第0回フォーラム
『マス・フォア・インダストリ』
のご案内
http://staff.math.kyushu-u.ac.jp/board/view3.php?B_Code=640
拝啓 早春の候 益々ご清栄のこととお慶び申し上げます。
さて、九州大学大学院数理学研究院におきましては、2007年4月に学内共同利用施設「九州大学産業技術数理研究センター」を立ち上げるなど、数学と諸分野(とくに産業界)との融合研究の展開をはかっているところです。この活動の一環として、下記のように、企業研究者を交えた標記ワークショップを開催いたしますのでご案内申し上げます。今回は、計算機・情報等にかかわる産業技術数理を主体としたプログラムです。今後はさらに、メーカーにおける数理等をテーマにしたワークショップを開催する計画です。ワークショップでは、企業等の研究所と大学関係双方の研究者から先端的研究の話題を提供していただき、活発な質疑応答や研究討論を通じて、数学の産官学連携を実質化する方策を探ることを目的とします。各講演にはモデレーターを指名し、講演者と聴衆が活発にコミュニケーションをとれるようリードしてもらいます。充実した高い水準の研究内容に触れることが主眼ですが、ワークショップ自体は大学院生を含む大学関係者や一般の企業関係者に広く開かれたものです。
敬具
九州大学大学院数理学研究院長
若山 正人記
1. ワークショップ
日 時 2008年3月27日(木) 9:30〜17:00 (受付開始9:00)
場 所 第一ホテル東京シーフォート 3階 ハーバーサーカス
(東京モノレール「天王洲アイル駅」そば)
http://www.hankyu-hotel.com/hotels/08dhtseafort/index2.html
主 催 九州大学大学院数理学研究院
共 催 九州大学産業技術数理研究センター
数年前に,日本数学会や日本応用数理学会で話題になった,「忘れられた科学〜数学」というタイトルが何度も出ていました.
プログラムと対比して,簡単に感想を.
プログラム:
9:55〜10:40 安倍 直樹 (IBMワトソン研究所 研究員)
『データ分析のビジネス最適化への応用』
モデレーター 竹内 純一(九州大学システム情報科学研究院教授)
概要 統計的モデリング、データマイニング、および機械学習技術のビジネス分析およびビジネス最適化への応用について、技術的な課題と実問題への適用の両観点から紹介します。
MDP(マルコフ決定過程)↓
Markov決定過程 - 機械学習の「朱鷺の杜Wiki」
を用た「マーケティング最適化」,それからMDPの拡張である制約付きマルコフ決定過程を用いた「負債回収最適化」についての事例と結果の解説でした.
確率モデルを用いて,過去の経験だけを考えるのではなく,長期的な展望で未来を視野に入れたマーケティングをすることが,長い目で見ると利潤を最大化にするのだ,という説明に,統計科学のある種の真髄を感じました.
プログラム:
10:50〜11:20 姫野 龍太郎(理化学研究所 次世代スーパーコンピュータ開発実施本部 開発グループディレクター)
『次世代スーパーコンピューターにかける夢』
モデレーター 田端 正久(九州大学数理学研究院教授)概要 現在取り組んでいる次世代スーパーコンピュータ開発プロジェクトでは、そのスーパーコンピュータの能力によって生命の謎にどこまで迫れるのか試してみたいと考えている。その挑戦計画について紹介する。
かつて,「魔球の謎を解く」で一世を風靡した姫野先生が,情報処理学会での次世代スパコンのセッション
特別セッション(3):超ハイエンドコンピューティングへの挑戦
とは一味違った切り口で,ペタFLOPSスパコンについて説明してくれました.
大きく違ったのは,情報処理学会では具体的な技術説明が多かったのですが,今回はアーキテクチャ等については「スカラー型とベクトル型の融合タイプのCPUとなる」といった程度で済ませ,主に分子動力学(姫野さん自身の御専門じゃないそうで,中身は実は良く分かっていないとおっしゃっておりました)や,生命科学への応用についての説明が多かったことです.
プログラム:
11:30〜12:00 手塚 集 (九州大学数理学研究院教授)
『モンテカルロ法と「次元の呪い」』
モデレーター 小西 貞則(九州大学数理学研究院教授)概要 「次元の呪い」に関して正反対の事が書かれている2冊の本(和書)をとりあげ、どちらが正しいか検証する。
「次元の呪い」というのでコンピュータ・ビジョンの話かと思ったら,純粋な(?)モンテカルロ数値積分法についての解説でした.
特に2冊の本の一冊目(「数値計算の常識」)は,相当に読み返していたので,書名を隠されても引用文だけですぐに分りました.
逆に,もう一冊の方は分りませんでした.いや,正確には,内容は見たような記憶があるので,多分,あまり読まずに置いてある数値計算の本なのだと思います.
プログラム:
15:30〜16:00 樋口 知之 (統計数理研究所副所長)
『統計的モデリングによるシミュレーションとデータ解析の統合』
モデレーター 小西 貞則(九州大学数理学研究院教授)概要 シミュレーション計算を測定・観測データと一体化する計算技術であるデータ同化の、その基本的考えと基盤的な計算アルゴリズムを紹介する。
樋口先生の現在のJSTのプロジェクト全体についての解説でした.
「データ同化」でググるとすぐに分るから,とおっしゃっていたのでググってみると,確かにすぐに分りました.
http://daweb.ism.ac.jp/
ちょっと驚いたのは,樋口先生も北川源四郎先生も,観測モデルも状態モデルも一般の非線形を含む関数形の説明をよくなさっているのに,今回は「観測モデルは線形で十分なことが多い」ということで,「粒子フィルタよりもアンサンブルカルマンフィルタを主に使う」とのこと.
大変に面白い御講演だったので,もっと話して頂きたかったです.
4次元変分法の説明のところでGA(遺伝的アルゴリズム)について触れながらも,今回は粒子フィルタとGAの類似性についてのお話もスルーでした.
プログラム:
16:10〜16:40 Wayne Rossman(神戸大学理学研究科准教授)
『Visualization and Discretization in Surface Theory』
モデレーター 宮岡 礼子(東北大学理学研究科教授)
大変に曖昧なタイトルでしたが,極小曲面と平均曲率が一定の曲面(せっけん膜)のお話でした.
微分幾何は多少の知識があるつもりでしたが,知らなくて驚いたことがいくつかありました.
例えば,Costa Surface(参照:udag)という極小曲面が,トーラスと同相だと言うこと.パッと見じゃ分かりません.
もう一つは,これらの曲面と可積分系の関係についての話です.Rossman先生は日本語で御講演して下さったのですが,とてもお上手な日本語なのですが流石に若干つたないところがあったため,「可積分系の方程式が使えます」と言われた時は聞き間違えかと思いました.
が,Sinh-Gordon方程式...ということで,スライドにも見慣れたS-G偏微分方程式が出てきたので,聞き間違いじゃないことが良く分かりました.
質疑応答の時の補足説明によると,Sinh-Gordonに限らず,「戸田格子などとも深い関係があります」とのこと.
実はその御講演の時,可積分力学系のカロジェロ・モーザー系のハミルトニアンで遊びながら聞いていたので,びっくりしました.
極小曲面の理論は,大流行したのは10数年前と聞いていますが,進化し続けているのですね.
プログラム:
16:50〜17:20 中山 季之 (三菱UFJ証券 研究開発部 部長代理)
『金融機関における数理ファイナンスの応用』
モデレーター 谷口 説男(九州大学数理学研究院教授)概要 デリバティブ(金融派生商品)は資金運用・調達、事業リスクマネジメントからのニーズに答えるかたちで著しく発展してきた。その背後には確率解析を中心とした数学に裏付けられた時価評価やリスク管理手法の高度化がある。本講演では、数理モデル・計算アルゴリズムの開発と実装を行うクオンツ業務について紹介する。
ブラック・ショールズを中心とした伝統的な確率微分方程式の実際の運用についての丁寧な解説でした.
面白かったのは,質疑応答の時に樋口先生が噛み付いたことです.
「最終的に離散化して解くなら,最初から離散的に扱った方が絶対に良い結果が得られるのに,なぜ敢えて連続系を?」
いや先生,それは恐らく答えられない質問でしょう...と思っていたら,助け舟も入っておりまして,「それとも,企業としては業界標準のようなものに従うのが常識だとかいう背景があるとか,その辺が以前から気になっていたので教えて下さい」と.
その通りだそうで(笑)
中山さんの回答に対し,樋口先生は「大変にクリアーな御回答で良く分かりました」と返事をなさって聴衆を笑わせておりました.