「『ちびくろサンボ』絶版を考える」読み直し

相変わらず本の読み直しをしてますが,感想は以前と同じでした.
トンデモ差別理論 - なぜか数学者にはワイン好きが多い

写真は,灘本昌久さんの「ちびくろサンボよ すこやかによみがえれ」です.

灘本先生は,単著じゃなかったこともあって「ちびくろサンボ 絶版を考える」では冷静な語り口だったのですが,こちらでは所々に熱い語り口の片鱗が見え隠れしていて,とても面白いです.

文系出身ながら自称プログラマ若い女の子がこの本を見て,「ちびくろサンボのどこが差別なんですか?」と聞いてくれたので,意地悪に最も滑稽で古典的で,それでいて過去10数年,言ってみて「なんやそれ?」というような顔をされた一つの差別論拠を言ってみました.

「ユニークな意見の一つは,ラストシーンで,サンボがホットケーキを169枚も食べるのは,黒人が異常に食欲旺盛なことを示しているからだそうですよ」

その子は,今まで何十回も見たことのある,「は?」という顔をしていました.
(この食欲旺盛黒人ステレオタイプ差別理論については,例えばAmazon CAPTCHA p. 88に,1972年にイギリスの「人種差別に反対する教師の会」が,イギリスの「タイムズ」誌に投書した意見として紹介されています)

しかし,この「『ちびくろサンボ』絶版を考える」が出版されたのは,1990年です.もう18年もたつのですか...「『ちびくろサンボ』絶版を考える」の中で対談や原稿を寄せている灘本氏の自己紹介が,「部落出身の34歳です」となっています.
今の私よりも若い(笑)
今では,当時の岩波書店版「ちびくろサンボ」も復刊されています.
瑞雲舎のほんだより

本書は、わが国では1953年に岩波書店から発売され、
1988年に絶版になるまで、日本中のこどもたちに親しまれていた絵本です。
その後も復刊を望む声は多くありましたが、
岩波書店はもちろん、どの出版社も、それに応えようとはしませんでした。
小社でも検討に検討を重ねた結果、その内容や文章表現に
何らの差別は無いと判断し、復刊することにしました。
(とらとバターの話のみ収録されています。)

急な出版だったため,批判はありましたが,田舎の本屋でも置いてあります.
また,当時の絶版要求に対する批判サイトもいくらでもあります.古参(=今ではほとんどメンテされていない)ものとして,例えば
黒人差別をなくす
があります.


私自身は,当時は調べたあげく,「絶版反対論者」でした.
そして今は,さらに調べたり勉強したりしたあげく,変わらず「絶版・言葉狩り反対論者」です.

岩波書店は,書籍の世界的規約ISBNにて,日本のコード「0」を持つ会社です.
バーコード3: おかだよしひろーぐ

日本語圏は言語番号が1桁で、残り9桁のうち最後の1桁は後述するチェックディジットに使われるので、会社コードと書籍番号は、あわせて8桁ということになる。上の例では出版社の「成文堂」は4桁の「7923」が当てられている。出版点数が多い会社は、書籍番号もたくさん必要だから、会社コードの桁は少ないことが必要だ、一方出版点数が少ない会社は、会社番号の桁を増やせる。というわけで会社コードが小さいところは大会社または歴史のある会社、大きいところは中小出版社という傾向になる。

ちなみに栄えある会社コード「00」は、岩波書店である。

当時,代表取締役社長として「『ちびくろサンボ』絶版を考える」編者からのインタビューに絶版した出版社側として唯一堂々と応じた安江良介氏が,現在はお亡くなりになられたのが残念です.
最も,堂々とインタビューを受けたことは評価したいと思いますが,主張の内容は「サンボ」という名詞が差別語だと言うだけの幼稚なものです.
今,「サンボ(Sambo)」を電子辞書で調べると,次のように出ました.

sam·bo1 /sÏ!mboç/
[名][U] サンボ 《柔道の技術を用いたレスリングの一種》.
sam·bo2 /sÏ!mboç/
[名] ( (複) 〜s) [しばしば S-] œ軽蔑ƒ 黒人 (Black); 黒人との混血.

岩波書店さん,二つ意味が出てますが,1番目のスポーツのサンボも差別用語ですか?


私は灘本さんの厳しい指摘が正しいと思います(「反差別の思想[被差別の痛み論批判]」,"ちびくろサンボよすこやかによみがえれ".pp. 189--)