朝日新聞の英語力


http://www.asahi.com/international/update/1020/TKY200710200041.html

DNAの二重らせん構造を発見して1962年にノーベル医学生理学賞を受けた米国の分子生物学者ジェームズ・ワトソン博士(79)が英紙とのインタビューで、黒人が人種的に劣っているという趣旨の差別発言をし、大きな波紋を呼んでいる。

 同博士は14日付のサンデー・タイムズ紙で「アフリカの将来を悲観している」とし、「社会政策はすべて、彼ら(=黒人)の知性が我々の知性と同じだという前提を基本にしているが、すべての研究でそうなっているわけではない」と語った。さらに「黒人労働者と交渉しなければならない雇用主なら、そうでないことを分かっている」と続けた。

まず,「大きな波紋を呼んでいる」というのは,本当のようです.

サイエンティフィック・アメリカン誌のGary Stix氏等のブログでも取り上げられています.
http://blog.sciam.com/index.php?title=james_watson_and_eugenics

James Watson and eugenics

Cold Spring Harbor Laboratory issued a statement from its board of trustees that addressed remarks by James Watson that were reported in The Sunday Times U.K. in which he claims that blacks are inferior in intelligence to whites
超訳
コールド・スプリング・ハーバー研究所が,J. ワトソン博士についての調査委員会の見解を公表した.ワトソン博士は,イギリスのサンデー・タイムス誌上で「黒人は知性の面で白人劣っていると主張」と報道されたのである.

ロイター誌でも記事がありました.
Scientist Watson returns to U.S. over race row | Reuters

Scientist Watson returns to U.S. over race row

Nobel Prize-winning DNA authority Dr. James Watson cut short a book tour in Britain on Friday and returned to the United States over racially insensitive comments attributed to him in a British newspaper.
超訳
科学者ワトソン,人種に関する論争のため,アメリカに戻る

ノーベル賞受賞者で,DNA研究の権威であるJ. ワトソン博士は,イギリスでの著書の宣伝のためのツアーを切り上げ,アメリカに戻った.それは,イギリスの新聞に取り上げられた,人種に関するコメントのためだった.

タイム誌でも.
The Mortification of James Watson - TIME

The Mortification of James Watson

he told the Sunday Times' Charlotte Hunt-Grubbe that he is "inherently gloomy about the prospect of Africa," since "all our social policies are based on the fact that their intelligence is the same as ours -- whereas testing says not really."
超訳
J. ワトソンの苦難

彼はサンデー・タイムス誌のC. H. Grubbe氏に対し,「アフリカの将来について,遺伝的な不安がある.なぜなら,現在の政治はアフリカの人々の知性は我々と同様だという事実に基づいているからである.」と語った....それは科学的な事実とは相反することだった.

元々のサンデー・タイムズ誌の記事は,こちらのようです.
Home Page – The TLS

The elementary DNA of Dr Watson
History will remember James Watson for the discovery of the double helix. But his pronouncements are often highly controversial. His former protegee examines the complex legacy of a Nobel laureate

長いインタビュー記事なので訳は省略しますが,元々は,DNAの螺旋構造の発見でクリック&ワトソンがノーベル賞を受賞したことに対し,第三の女性研究者が受賞しなかった,有名な科学史上の事件についての記事だったようです.その記事の中でワトソン博士の長年に渡る各種爆弾発言が紹介され,その中のいくつかが注目されて話題になってしまったようです.

いまどき「黒人と白人の人種差別」なんて発言する人はいないだろう.恐らく朝日新聞が英語を読むのを間違ったのだろう(灰色の肌の人はどうなるの?)と思って英紙を見てみたのですが,結論として,朝日新聞の報道はウソではありませんでした.
ワトソン博士は,「アフリカの人」という表現だけじゃなく,「黒人」という単語を使っていたようです.

念のためですが,こんな調査をしたのは,「『黒人』などという単語自体が非科学的」という科学的な事実を,まだ理解していない人が多いのではないかと思っているからです.
その辺の科学者はおろか,もちろんワトソン博士は,全ての地球人はアフリカで生まれた祖先からの子孫であることを分かっています.
(将来的に,こんな現代の科学的な事実が,覆される可能性はありますが.)
だから,アフリカに住んでいる人を黒人と呼ぶならば,世界中の全ての人には黒人の遺伝子が受け継がれています.従って,「白人」「黒人」などという分類はナンセンスになります.
(「白人」にも,黒人の血が必ず入っています.)

この問題については,何度目かの引用になりますが,マイケル・シャーマーの著書が参考になります.
http://www.amazon.co.jp/%E3%81%AA%E3%81%9C%E4%BA%BA%E3%81%AF%E3%83%8B%E3%82%BB%E7%A7%91%E5%AD%A6%E3%82%92%E4%BF%A1%E3%81%98%E3%82%8B%E3%81%AE%E3%81%8B%E3%80%882%E3%80%89%E6%AD%AA%E6%9B%B2%E3%82%92%E3%81%9F%E3%81%8F%E3%82%89%E3%82%80%E4%BA%BA%E3%80%85-%E3%83%8F%E3%83%A4%E3%82%AB%E3%83%AF%E6%96%87%E5%BA%ABNF-%E3%83%9E%E3%82%A4%E3%82%AF%E3%83%AB-%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%83%BC/dp/4150502811

第15章
ビジョンホールと連続体
あるアフリカ系-ギリシャ系-ドイツ系-アメリカ人が人種について考える

(前略)
わたしの母方はドイツ人で,母方の祖父はギリシャ人である.もし今度そのような書式に書き入れる機会があれば,わたしは「その他」にチェックをいれ,人種的,文化的伝統については「アフリカ系-ギリシャ系-ドイツ系-アメリカ人」というように,真実を書きいれよう.

そしてそれを誇りに思う.

マイケル・シャーマーアメリカ人ですが,太古のアフリカ人の血が入っていることを誇りに思うということです.これは,私のような日本人も,同じく感じるべきことです.