岩波数学辞典 第4版 紹介編

こちらに先を越されてしまいましたが...
http://www.einstein1905.info/whatsnew/2007/04/0704_iwanamimath.html

私も順次,内容を紹介していきたいと思います.

数学ファンなら興味があるでしょう「ポアンカレ予想」について.
第3版では,「94. 組み合わせ多様体C」の中で,このように書かれています.

'単連結な3次元閉多様体は3次元球面に同相であろう'というのが有名なPoincare予想である.この予想は多くの人の努力にもかかわらず未解決であるが,一般次元nに次のように拡張される.

そして第4版では,「組み合わせ多様体」という大項目自体がありません.この辺が数学研究のトレンドを感じさせられて面白いところです.その代わり,「152. 3次元多様体」という大項目があり,その中の「A. ポアンカレ予想と3次元多様体」という項目にこう紹介されています.

多様体トポロジーの研究を始動させたH. Poincareの位置解析と題する一連の論文は,'単連結3次元閉多様体は球面に位相同型か'という,今日ポアンカレ予想と呼ばれる問いで締めくくられている.
(中略)
1980年にはThustonが,ポアンカレ予想を含む形で'JSJ分解の各成分には局所的等質空間の構造が入る'という幾何化予想を定式化,3次元多様対のトポロジーの研究に幾何学的視点が有効であることが鮮明になる.そして,R. HamiltonによるRicci流を用いた幾何化のプログラムが,21世紀になってG. Perelmanにより若干の修正の上完成され,幾何化予想,したがってポアンカレ予想は肯定的に解決された.

ポアンカレ予想は解決された」というのが日本数学会の公式見解となったようです.


それから,私の専門の一つの「常微分方程式の数値解法」について.

第3版では,「A. 序論」で,次のように紹介されています.

各種の方法のうちで最も広い適用可能性を持つ方法は,独立変数の離散値とそれに対応する未知関数の値とを使った近似問題を扱ういやゆる差分近似法(discrete variable method, difference method)である.

これが第4版では,次のようになっています.

(前略)最も広い適用可能性を持つ方法は,独立変数の離散値とそれに対応する未知関数地を近似する構成的な方法である離散変数法(discrete variable methods)である.

「差分法」ではなく「離散変数法」と呼ぶのは,あの先生です.で,あの先生らしく,第4版の「H. 安定性解析」の最後に,次のような一文が入っています.

線形安定性解析と関連しながら,微分方程式系の持つ'構造'を数値的にも保存する離散変数法の研究も進んでいて,幾何学的数値解法(geometric numerical integration)と総称される.

第3版には「G. 安定性,カオス」という項はありますが,geometric numerical integration(GIと呼ばれます)については記述がありません.
私が嬉しいのは,英語名こそGI(幾何学的数値積分法)ですが,日本語名が「幾何学的数値解法」となっていることです.できれば,「幾何学的数値解析法」にして頂きたかったですが.保存量を保存する幾何学的数値解析法は,数値積分法だけじゃなくもっと数値解析法の様々な分野に応用できるのではないかと思っているからです.

「あの先生」というのは,もちろんN大学の...もがもが.