微妙に違う,Web上の記事

Webで発表するのは紙面媒体上で発表するより気楽なのかなぁと思います.なんか,間違ってはいないけど,底が浅かったりずれてたりです.
例えば,
科学なニュースとニュースの科学:【第4回】まん延するニセ科学と、対峙する科学者たち - ITmedia NEWS
勇ましいタイトルですけど,

こういったニセ科学は、英語では「pseudoscience」と呼ばれ、従来は「疑似科学」という訳語をあてられることが多かった。だが、1999年に翻訳されたマイクル・シャーマーの著書「なぜ人はニセ科学を信じるのか(I/II)」(岡田靖史訳/早川書房刊)を読んだ菊池氏は、「疑似」という言葉には価値判断が含まれないが「ニセ」という言葉は否定的な意味合いを強く含むため、以降は「ニセ科学」という呼称を採用することにしたという。

まず,2分冊のものは2003年に刊行された文庫版だし(1999年版は「なぜ人はニセ科学を信じるのか--UFO,カルト,心霊,超能力のウソ」の単行本1冊.上記のitproのサイトで「関連リンク」と出されている菊池さんのサイトでは,「なぜ人はニセ科学を信じるのか(マイクル・シャーマー、岡田靖史訳、早川書房、1999、文庫版は2003)」と正確に書かれています),「『ニセ科学』という呼称を採用することにしたという」って,別にNHK番組やこちらの記事を見なくても,菊池さんのサイトでキッパリと書かれてますし.
nise kagaku

なお、「疑似科学」という言葉を使うかたが多いのですが、この言葉には価値判断は含まれません。SFの評論などでは「よくできた疑似科学的説明」などという使い方をすることがあり、この場合はむしろ褒め言葉でしょう。私はSFファンなので、「疑似科学」という言葉はこういう場合のために温存しておきたいと考えています。

こちらも同じ.
http://www.mainichi-msn.co.jp/science/rikei/news/20070207ddm016070095000c.html

菊池誠・大阪大教授(統計物理学)は「水が言葉の意味に影響を受けることはあり得ない」と断言。「言葉の意味は使われる場面によって変わるし、結晶の美醜で物事の善悪を判断する点もおかしい。道徳的にいい話とも思わない」と写真集の内容を批判する。

教授が断言するまでもなく常識的に分かることですし,だいたい,菊池氏は,「おかしい」と言うだけじゃなく,「じゃあ,あの水の結晶は何なのか?」ということも言っております.
「水からの伝言」を信じないでください - なぜか数学者にはワイン好きが多い

itmediaもmainichi-msnも,菊池さんに直接取材せずに,菊池さんのサイトとテレビだけ見て記事書いてるのが見え見えです.

  • 2007/02/18 追記:「itmediaもmainichi-msnも,菊池さんに直接取材せずに,菊池さんのサイトとテレビだけ見て記事書いてるのが見え見えです.」の部分につきましては,完全に邪推で,itmediaからもmainichi-msnからも,ちゃんと取材があったとのことです.確認を取らずに断言してしまって,すみませんでした.

itproの方は,次の記事もちょっとおかしくて...
科学なニュースとニュースの科学:【第5回】難問奇問と天才奇人数学者 〜ポアンカレ予想の解決〜 - ITmedia NEWS

なんでも、ポアンカレ予想というのは「単連結な3次元閉多様体は3次元球面S3に同相である」という予想らしい。なんのことだかわかりますか? わたしには全然わかりません。

 わたしにもなんとなく想像できそうな、もうちょっと直感的な言い方だと「どんな掛け方をされた輪ゴムも無理なくはずせるような、手の上に乗る1つの物体は、滑らかに球に変形できるはずである」ってことらしい。

前半は正しいけど,後半には納得いきません.全然直感的じゃないです.n=2の例を出せば,かなり直感的(というか自明)になりますのに.

だいたい、この人がポアンカレ予想の解決を宣言したのは2003年のことなんだけど、それも査読つきの論文誌に投稿したとかじゃなくて、プレプリント(要は、正式な論文じゃないリポートみたいもの?)をさっさと発表して、本人はそれっきり。

いや,プレプリ(プレプリント)やテクレポ(テクニカルレポート)と,学生のレポートを一緒にされては困ります.
ペレルマンが論文を出したのは,lanl.arXiv.orgです.
このサイトは,今でもxxx.lanl.govでもアクセスできます.lanl,ロスアラモス米国研究所が核物理学,高エネルギー物理学のプレプリントを中心に始めたサイトが元になっていて,今では(というか,相当前から...10年くらい前だったと思います)日本にもミラーサイトがあります.
arXiv mirror jp.arxiv.org has been discontinued
ミラーサイトの運営は,京大基礎物理学研究所です.
確かに査読は無く誰でも投稿できますが,ここはいい加減な論文が出ると,袋叩きに合います.
いい加減な論文どころか,例えば統計的確率推論で著名な研究者が,たまたまその研究を情報科学や数学の分野でなく,物理学の論文誌に論文を発表したところ,サイト上で袋叩きにあったのは紹介した通りです.
圧縮による類似度 - なぜか数学者にはワイン好きが多い

極めつけは,以下のようなものです.

変人天才数学者というと、ポアンカレ自身にもいろいろ逸話があるし、最近では『ビューティフル・マインド』なんて小説や映画にもなったジョン・ナッシュという人もいたりしたけど、このペレルマン氏ほど才能と奇行にあふれた一代の天才もなかなか他にいないような気もする。

そんなバカな!
不完全性定理」や「重力場方程式のゲーデル解」を発表しておきながら,餓死したゲーデルは?「ナマギーリ女神が夢の中で教えてくれた」と言って,膨大な予想(のちに定理となったものが莫大)を残したインドのラマヌジャンは?20歳で決闘死したガロアは?だいたい,才能や奇行の伝説には事欠かないオイラーガウスは?ニュートンは?
ペレルマン氏は確かに変人ではありますけど,「他にいないような気もする」というのは,気のせいです.