人肉食の物語いくつか

カニバリズム自体がテーマじゃなくて,とても見たい映画が近く公開されるそうなので,それから連想した話題です.
その映画は,以下のものです.


http://news.ameba.jp/entertainment/2008/12/29521.html

36年前の“アンデスの奇跡”を映画化した「アライブ-生還者-」

12月25日 21時41分

 “クリスマスの奇跡”や“アンデスの奇跡”と呼ばれ世界中で報道された、驚くべき、感動の事件の真実の記録。イーサン・ホーク主演のハリウッド映画「生きてこそ」(92)の題材にもなった有名なアンデス山脈の旅客機墜落事故。極限状況における人間の友情と団結力、命の尊さを謳いあげるドキュメンタリーの傑作「アライブ-生還者-」が、2009年春、ついに日本でも公開される。

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映画は改めて「生存者」本人たちにインタビューしたとのことですが,オフィシャルサイトを見てもはずせないのは,事件のあった1972年より2年後に出版された「ALIVE--The Story of the Andes Survivors--」です.
私が持っているのは,新潮社の昭和57年発行平成5年第11刷の文庫本です.
http://www.amazon.co.jp/%E7%94%9F%E5%AD%98%E8%80%85-%E6%96%B0%E6%BD%AE%E6%96%87%E5%BA%AB-P%E3%83%BBP%E3%83%BB%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%89/dp/4102188010

オフィシャルサイトには,本当の生存者の一人,エドヴァルト・ストラウチ氏も登場しています.
http://seikansha.jp/news.html

10/22(火)、六本木ヒルズでの映画「アライブ」の上映後、
E・ストラウチ氏のティーチ・インが行われました

建築家としての仕事をしながら、世界中でこれまでの経験を講演しているストラウチ氏は
アンデスでの体験を世界中に伝えたい。それが自分への救いにもなります」
と挨拶されました。

一緒に生還した仲間については、
「今でも強い絆で結ばれているし毎年救出された12月22日には生存者16人が集まり、それが今では、家族が増えて100人以上になります」と、穏やかな表情でお話されました。

また、生還者16人全員が参加するチャリティー財団を設立。
「物語が有名になり、私たちはそれを利用して世界の恵まれない人を助けをしたい」と
アンデスでの出来事を通じて、精力的に活動されているそうです。

私の持っている「生存者--アンデス山中の70日--」では,51ページにE. ストラウチ氏の写真が載っています.鋭い目と眉の辺りが全く変わっていません.


ところで,アメーバ・ニュースで「 “クリスマスの奇跡”や“アンデスの奇跡”と呼ばれ世界中で報道された、驚くべき、感動の事件の真実の記録。」と表現されている物語は,一蹴にされています.

アンデスの聖餐?ああ,アンデス山中に墜落した飛行機の搭乗者が,死んだ人の肉を食べて生きたという話だね.ローマ法王が神の名において許したって話?ありゃ外国のことでしょう.わしのやったこととは一緒にならないよ.
なぜ一緒にならないかっていうのかい.日本人だからさ.日本には日本の道徳思想ってもんがあるんだよ.許されていいもんと,どうしても許されないもんがあるんだよ.あんなことやって許すなんて.外国人とは違うんだよ.

カニバリズムを批判していると誤解されると困るので,個人的な意見を書いておきますと,私はどちらかというと肯定派です.大いに肯定して「毎日,人肉を食そう」とは言いませんが,過去の事象について,様々な文化,歴史,状況があるのでそれらを考えると批判する立場にはありません.よってほぼ全て認めます.いわゆる快楽殺人によるものは別として,文化的もしくは極限状況での人肉食は忌みません.


ところで上記の「日本の道徳思想」という発言は,次の本に現れるものです.
http://www.amazon.co.jp/%E8%A3%82%E3%81%91%E3%81%9F%E5%B2%AC%E2%80%95%E3%80%8C%E3%81%B2%E3%81%8B%E3%82%8A%E3%81%94%E3%81%91%E3%80%8D%E4%BA%8B%E4%BB%B6%E3%81%AE%E7%9C%9F%E7%9B%B8-%E3%83%8E%E3%83%B3%E3%83%95%E3%82%A3%E3%82%AF%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%83%96%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9-%E5%90%88%E7%94%B0-%E4%B8%80%E9%81%93/dp/4765240789
この本の内容の,この本より有名な「ひかりごけ」については,Wikipedia参照.
ひかりごけ事件 - Wikipedia

ひかりごけ事件ひかりごけじけん)は、1944年5月に、現在の北海道目梨郡羅臼町で発覚した死体損壊事件である。日本陸軍の徴用船が難破し、真冬の知床岬に食料もない極限状態に置かれた船長が、仲間の船員の遺体を食べて生き延びたという事件である。

食人が公に明らかになった事件は歴史上たびたびみられるが、ひかりごけ事件はそれにより刑を科せられた初めての事件だとされている。一般には「唯一裁判で裁かれた食人事件」と言われるが、日本の刑法には食人に関する規定が無いため、死体損壊事件として処理された。

この名称は、この事件を題材とした武田泰淳の小説『ひかりごけ』に由来する。なお、武田は食人を行った徴用船の船長と接触したことはなく、『ひかりごけ』はあくまでもこの事件をモチーフとした作品である。


さて,ここまでの紹介を良く読んで頂ければ,要は2冊の本を紹介していることが分かると思います.
西洋の事件である「生存者」と東洋の事件である「ひかりごけ」です.
大きな違いは,

  1. 「生存者」は感動の物語で,死者・生存者は共に集団であり,関係者にキリスト教徒が多く,事件が起こったのは比較的近代(日本ではオイルショックの頃,1972年)である
  2. ひかりごけ」は(少なくとも「裂けた岬〜『ひかりごけ』事件の真相」では)生存者がひたすら懺悔して悔やみながら死んでいく話であり,死者は集団だが,食された人員は一名・生存者も一名であり,事件が起こったのは戦中1943年である

です.
時代も関係者数も状況も何もかも違いますが,余りにも大きく違う内容に,読んだり見たりして色々考える価値がある,二つの物語だと思います.


私自身は,極限の状況でも,恐らく人肉食はしないと思います.嫌だからじゃなくて,生きる欲望の無さからそう思います.以前に一度,危なかった時に,その辺を実感しました.