空飛ぶスパゲティー・モンスター教

以前にも書いた通り,「トンデモ本の世界U」には,結構ダウトがあります.
トンデモ本の世界U - なぜか数学者にはワイン好きが多い

例えば,書いた「ゼータ関数子ちゃんは葉山に隠れ住んでいた(加藤和也:解決!フェルマーの最終定理)」(pp. 86--94)はトンデモ本じゃなくて普通の数学の啓蒙書ですし,「君もゾンビとプロレスができる!(友野祥:バカバカRPGをかたる)」(pp. 179--187),「おそれいった不倫殺人小説(渡辺淳一愛の流刑地)」(pp. 278--285)だって,トンデモ本(著者の意図と違った見方から笑える本)とは違って,著者の意図通りに楽しめる本です.
また,いまさら飛鳥昭雄(「エイリアンの正体とは未確認動物カッパだった!(飛鳥昭雄・三神たける:失われた異星人グレイ『河童』の謎)(pp. 240--248))とか,「トンデモ本の世界V」の方ですが加治木義博(「知られざる発明王の秘密」(加治木義博:老いない脳の秘密)(pp. 279--286))とか,何をイマサラ...という著者の本の紹介もあります.

しかし,山本弘さん・皆神龍太郎さんのテレビ番組出演秘話とか,上で批判した「これってトンデモ本じゃなくて,タダの良書の紹介ですやん!」という中に凄い良書があったりと,買って損は無かったと思った本でした.

そんな「トンデモ本の世界」の中で紹介されていた非トンデモ本のうち,傑作だと思ったのが次の本です.

反★進化論講座
http://www.amazon.co.jp/%E5%8F%8D%E3%83%BB%E9%80%B2%E5%8C%96%E8%AB%96%E8%AC%9B%E5%BA%A7%E2%80%95%E7%A9%BA%E9%A3%9B%E3%81%B6%E3%82%B9%E3%83%91%E3%82%B2%E3%83%83%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%BB%E3%83%A2%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%81%AE%E7%A6%8F%E9%9F%B3%E6%9B%B8-%E3%83%9C%E3%83%93%E3%83%BC-%E3%83%98%E3%83%B3%E3%83%80%E3%83%BC%E3%82%BD%E3%83%B3/dp/4806713406

オリジナルサイトがあり,今なら創造神がサンタの帽子をかぶっています.
Church of the Flying Spaghetti Monster

この本の特徴は,アマゾンやトンデモ本の世界の書評にはない,次の二つにあると思っています.

  • 安直な設定

適当なのか計算ずくなのか知る由がありませんが,「人類の祖先はサルではなく海賊」(確かに猿なわけではないですが,そこまで細かいことは気にしないで...),「地球や宇宙,人類を作ったのは空飛ぶスパゲティ・モンスター」という安直で(一見)いい加減に見える設定です.読んだ人は,すぐに考え付くと思います.
「スパゲティ・モンスターが神?!そんなバカな!スパゲティが人間を作るなんてあるはずがない.そんなことが言えるなら,スパゲティじゃなくても良いはずだ.日本風に『おにぎりモンスター』でも良いはずだ.人類はおにぎりモンスターによって作られた.その証拠に,おにぎりには米の中に具が入っていることが多い.これは,神:おにぎりモンスターが自分を真似て人間を創った証拠だ.人間は体内に具=内臓が詰まっている.現代科学では,物質は原子・さらにはクオークで構成されているという.超弦理論はまだまだ研究中で実証されていない.原子やクオークは完全な球体では無いだろうが,少なくとも小さい塊であることが証明されている.原子やクオークは,おにぎりに似た形なのかもしれない.おにぎりは,さらにバラバラの米になる.これは原子がバラバラのクオークに分かれることに対応している.(以下,無限に続く)」
ところが,賢い人なら,そのうちに気付きます.
「...あれ?適当なことを考えていたつもりが...これって,インテリジェント・デザイン説を信奉する人が言うことと,何の違いも無いですやん...」
そう,この本は極めて日本人向けなのです.オリジナリティは無いけど,凄いものがあればいくらでもそれを改良して類似のものを作り続けることができる日本人に.日本人は,きっと新たなスパモン教を作ることでしょう.そしていくらでも作れる=反証不可能=科学ではないということに,簡単に気付くことができることでしょう.
スパモンは,重力について説明することができます(証明するわけではない).スパモンは,無数の見えない触手で地球上の物質を押さえています.それゆえ,人類が増えると一人当たりに押さえつける力が少なくなり,その結果として人類の身長が高くなります.
おにぎりモンスターでも説明できます.おにぎりモンスターは見えない米粒を物質に上からぶつけることで,物質を地球表面に押さえつけておきます(神なので,米粒は無尽蔵にある).しかし人類が増えることによって,一人当たりにぶつかる米粒の数が確率的に少なくなります.その結果として,昔と比べて人類の身長は高くなってしまいます.

  • 真の現代科学を織り交ぜた内容

例えば,本文中に「ゲーデルによる神の証明.さっぱり分からない.」という図がありますが,著者は分かっているはずです.コンピュータを知っている人が見れば,それがタダの論理記号(∀(任意の)とか∃(ある))とかのプログラムに過ぎないことが.また,コルモゴロフの複雑性の話も出てます(内容をそれらしくするために笑).しかし,単に単語を出しただけではなく,内容は正しい(というか,間違ってはいない).
(「スパモン神学代数」については,正直,分かりませんでした...)


ちなみに,私は本は基本的に自分で探します.Webで注文は滅多にしません.見つけた時の喜びが大きいからです.
この本は,大阪難波ジュンク堂で見つけました.が,散々,生物学や進化論のコーナーを探しても見つからなかったので,不本意ながらコンピュータ検索をかけたら,「宗教一般」のところにあると出て,実際,ありました.


私は,例えばドーキンスの「神は妄想である」というようなストレートな熱い本と共に,このようなジョーク本は大好きです.
ドーキンス「神は妄想である」 - なぜか数学者にはワイン好きが多い