数学と諸分野の協働によるブレークスルーの探索

分野横断型の数学研究に関する研究助成金の公募が始まっています.
III.戦略目標 社会的ニーズの高い課題の解決へ向けた数学/数理科学研究によるブレークスルーの探索

数学と異分野の連携を深めるためには、まずは一定条件の下で数学研究者の意思に基づくテーマ設定による個人研究を進めつつ、他分野との連携の可能性を模索して共同研究の芽を育て、他分野との共同研究に発展させるといった取り組みを柔軟に組み合わせることが望ましい。また対象とする研究課題が数学を活用することで有効にソリューションにつながるかどうかの判断には、数学研究者サイドで他分野への視野も広い人材を活用することが必要である。

素晴らしい!
この「まずは一定条件の下で数学研究者の意思に基づくテーマ設定による個人研究を進めつつ」という方針のため,今年度は「さきがけ」だけの募集になるようです.
「数学と諸分野の協働によるブレークスルーの探索」 −募集要項
短いですし,全部引用したいくらいの名文です.

諸分野の研究対象である自然現象や社会現象に対し、数学的手法を応用するだけではなく、それらの数学的研究を通じて新しい数学的概念・方法論の提案を行うなど、数学と実験科学の融合を促進する双方向的研究を重視するものです。

そうそう.これこそ,数学研究に求められていたことですよ.

高度に発達した現代社会を見えない部分で支えているのが数学の特徴です。見えない部分という意味は、裏方としての基盤的側面のみならず、日常の人間の感覚を超えた複雑な問題に対して、目に見える「もの」という形ではなく、それに対する斬新な「見方」を提示することで、新たな解決の糸口を提供するという面も含みます。
 現代の科学や社会が孕む多くの困難な問題に現代数学が本質的にできる寄与は後者に属すると考えられます。例えば、高度な計測技術による材料科学や生命科学における膨大な時空間データと階層的かつネットワーク型の自己組織化ダイナミクスは,数学が提供する概念を介さずには理解が困難と思われます。また環境、経済、情報、輸送、政治から人間心理に至る複雑で不確実な社会に山積する全人類的課題に,数学は定量的記述の枠組みを与えるのみならず、そこに潜む根源的な問題の所在や,一見無関係な諸問題相互の関連性を浮かび上がらせる機能を果たすと期待されます。数学のもつ強力な普遍性が、これまで困難と思われていた問題群に光を当てる契機となると考えられます。

全くその通りだと思います.アインシュタイン一般相対性理論を完成させる遥か前にリーマン幾何学が既に出来上がっていたことは有名な話ですが,同じように,まだ使われずに眠っている数学的理論は山のようにあるはずです.


今回の助成金は,背景に文部科学省・科学技術政策研究所・科学技術動向研究センターの昨年の報告書があると思われます.
日本学術会議シンポジウム 政策研が報告書「忘れられた科学−数学」を発表 : お知らせ
私の手元にも一部ありますが,183ページで中々の読み応えです.とても面白いので,現在の数学界の概略を知りたい人は,ながめてみてはいかがでしょうか.
下記のリンクで,「全文」の方は,本当に一冊分まるごとのファイルです.「概要」の方は,16ページのPowerPoint資料(多分)を8ページのPDFに直したもので,手軽に読めます.アンケート結果なんかが面白いので,ぜひぜひ.
http://www.nistep.go.jp/achiev/ftx/jpn/pol012j/idx012j.html