シンプレクティックな陽的オイラー法

若い方達は,「シンプレクティックな公式は神のような人達が天才的なひらめきで発見したものなんだ」と思っている方もおられると思いますが,自分の目的次第ではオリジナルの公式を作ることはいくらでもできます.
汎用的な公式じゃなくても,自分が使える公式を作ることは大切なことです.(「特殊から一般へ!」と言ったのはガウスでしたっけ,オイラーでしたっけ.まずは特殊を考えることは数学では大事です)

例えば,応用数理学会ネタを考えるなかで式をいじっているうちに,こんなのを見つけました.

私の目的は,高速な解法を構成することです.一般のシンプレクティック数値解法は陽的には構成できないことがだいたい証明されています.シンプレクティックオイラー法は,半陰的な解法です.
(面白いことに,完全に陰的なオイラー法はシンプレクティックじゃありませんじゃありません)

主に工学の人間が発見する「強引法」というのがあります.シンプレクティックじゃないなら,シンプレクティックになるように変換してしまえ.シンメトリックじゃないなら,シンメトリックになるように変換してしまえ.というようなアプローチです.

さて,最も単純なハミルトニアンで,調和振動子を考えます.バネですね.

H=1/2 (p^2 + q^2)

このハミルトニアンに対し,普通のオイラー法を適用してもシンプレクティックな解法にはなりません.(pとqが分離しているので,半陰的なシンプレクティックオイラー法を適用すると陽的な解法になるのですが,まあそれは気付かなかったことにして下さい)
数値計算の刻み幅をhとすると,(1+h^2)だけシンプレクティック性が崩れてしまいます.

じゃあ,強引法で,(1+h^2)で割ってしまおう.と思ってやってみると...

シンプレクティックになりました.hは定数とします.そしてシンプレクティックなだけではなく,「理想的な離散化」になっていました.理想的な離散化というのは,刻み幅を周期より大きくしても大丈夫な差分化です.離散化した式から座標を求めると飛び飛びの値が計算されるのですが,それが完璧に解析解の軌道上に乗ります.広田良吾先生は,理想的な離散化を独自の双線形変換で求めました.双線形変換でゲージ不変に構成された差分化スキームがシンプレクティックになることが多いことを不思議に思っていましたが,こうやって自分で計算してみると,なんとなく糸口が見えてきます.

...文章の勢いで書いてしまいましたが,糸口から答えを見つけるのは,まだまだです.
まあ,言いたかったのは,自分で手を動かして計算するのは大事だね,ということで.
情報処理学会の全国大会では,99.99%の発表者がパソコンとプロジェクタを使います.数学者の広中平祐先生もそうでした.でも,日本数学会の大会では,黒板とOHPが使われます.数学者は,どこまでも手を動かして数式を書くことにこだわりがあるようです.