数学セミナー2005年6月号

tullio2005-06-12

を買ってきました.もう7月号が出るので,ぎりぎりでした.

なかなか面白いと思ったのですが,全部紹介するわけにはいかないので,片寄っていると思いますが私自身が関心を持っている分野から述べたいと思います.

まず,シリーズ「世界の数学研究所」に,京大数理解析研究所が取り上げられました.歴史的な話も含まれており,また訳の山下純一さんがミスのチェックをしてくれている上にいろいろ注釈を付けてくれていて面白いです.

また,日本の非線形数理科学の草分け伊理正夫先生が「変分」というタイトルの原稿を書いておられます.理論に片寄らずに丁寧に説明する能力は御健在です.お勧めの記事です.
変分法の考え方,変分を取る作用積分がいろいろな形だった場合の説明(純粋数学系の文献にはこれがたいてい無い),工学的な話題(ここまでくると独壇場)と,わずか7ページに話題豊富です.有限要素法のガラーキン法(ガレルキン法)が,正確には「ガリョールキン法」だという指摘をされております.以前に一松先生が書いておられたガウスジョルダンではなくガウス・ヨルダンだというのと同じような発音の問題ですが,数学史的には正しい言葉でないと誤解や史的な間違いが生じるので,貴重な御指摘だと思います.

あと,シリーズ「リッチ・フローと統計物理」と,シリーズ「数学で物理を」が面白かったです.
リッチフローは,世紀のポアンカレ予想の解決に使われた(まだ正式な論文は出てないので,解決されたかどうかは断言できません.私も元論文をざっと読みましたが,数学的な誤りがゼロかどうかなんて私には分かりません)ということで有名になりましたが,古典的な微分幾何への新たな武器の導入と見ても面白いです.微分幾何相対性理論に使われているリーマン幾何学ですから,物理的な観点からもいろいろ使えそうです.リッチフロー自体は新しいわけではないのですが(ハミルトンがいろいろ使っていた),トポロジーにこれだけ使えるというのはペレルマンに負うところが多く,久しぶりにわくわくするようなネタです.
それから「数学で物理を」では,微分形式の解説が続いています.微分形式には自然にベクトルの概念が含まれ,微分積分がみごとに調和します.ガウスの発散定理に始まり,マックスウェルやアインシュタインの方程式が簡潔に記述されることを知ると,とりこになってしまいます.

というわけで,興味を持たれましたら,ぜひ読んでみて下さい.