数学者へのメッセージ

数学会で,次のような講演も聴いてきました.
日本数学会・2009年度年会

講演会「マスコミ関係者から数学者へのメッセージ」

主催: 日本数学会
開催日時: 3月28日(土)13:00〜14:00
開催場所: 東京大学駒場キャンパス13号館1323教室
講演:
春日 真人 氏(NHK名古屋放送局制作専任ディレクター)
「数学を伝えるという“難問”〜ポアンカレ予想取材記〜」
元村 有希子 氏(毎日新聞科学環境部記者)
「社会の中の数学」

私の日記でも二度も取り上げた,NHK番組を作った(そして本を著した)ディレクターの方が,こちらの一人目の春日さんでした.
「100年の難問はなぜ解けたのか」再放送(前) - なぜか数学者にはワイン好きが多い
100年の難問はなぜ解けたのか -- 天才数学者の光と影 - なぜか数学者にはワイン好きが多い

そこそこ話題になる番組を作って本まで書いているので,貫禄あるベテランディレクターさんなのかと思ったら,予想よりも若々しい感じで,ジョークも飛ばして笑わせておりました.
裏話もして下さったのですが,書いても大丈夫でしょうか?
問題が無いと思われる範囲でいくつか...
私も以前,紹介したように(100年の難問はなぜ解けたのか -- 天才数学者の光と影 - なぜか数学者にはワイン好きが多い),スメール博士と話しているときに

博士にインタビューしている間,大変失礼ながら「言っていることが難しすぎる...」と考えていた.英語がわからないという意味ではない.内容がわからないのである.

と書いておられ(p. 111),またあとがきで

ポアンカレ予想の最初の詳しい解説は,東京工業大学名誉教授の本間龍雄先生にしていただいた.

とさらりと書いておられますが(p. 226),実は本間先生とのお話も,ずいぶん御苦労されたそうです.「もういいでしょう」と話を切り上げられてしまって...と苦笑しておられました.

また,番組冒頭,本ではpp. 36より,バレンティン・ポエナル博士(Valentin Poenaru, Valentin Poénaru - Wikipedia)がロープを使って分かりやすく子供に特別授業をする風景が出ますが,そのロープ等の小道具は全部スタッフが作ったとか.
なお,このポエナル博士,トポロジー的なポアンカレ予想に意地を張っているのが,Wikipediaからもリンクが張られている
Front: [math/0612554] On the 3-Dimensional Poincaré Conjecture and the 4-Dimensional Smooth Schoenflies Problem
に現れていて面白いです.書き出しはこんな感じです.

This is the announcement of an alternative approach to the 3-dimensional Poincar´e Conjecture, different from Perelman’s big and spectacular breakthrough. No claim concerning the other parts of the Thurston Geometrization Conjecture, come with our purely 4-dimensional line of argument.
(適当な訳)
これは3次元ポアンカレ予想に対するペレルマンの恐るべしブレイクスルーの手法とは異なる,新たなアプローチの紹介です.
サーストンの幾何化予想の他の部分については,我々の純粋に4次元に限った議論からは主張しません.


もう一人の元村 有希子さんも,毎日新聞社がネットで行ってきた豊富なアンケートデータを元に,辛辣な提言を行ってくれました.が...多くは,残念ながら数学者にとっては「それは分かってはいるのですが...」といったもので...
一番面白かったのは,一番最後の言葉でした.

私は福山雅治さんのガリレオが好きで,特に「さっぱり分からない...しかし,実に興味深い」というセリフが大好きです!
それって大事だと思うんです.「こんなに役に立つ研究をしている」「こんなことを解明した」という主張だけじゃなく,数学者も「よく分からないけど,面白いからやっている」って,もっと普通の人に言っても良いと思うんです!

なるほど,特に国立大学や国立研究所が法人化されてからは,「象牙の塔から脱出せよ」が政府命令でしたから,昔は言っていたこのようなことは,確かに忘れかけていたことです.