本当に「寝だめは逆効果」か?

「数学なんて,生きるのに必要ない」というのは,ウソです.数学の本質は論理的な考え方であって,「公式の暗記」ではありません.
これを思ったのは中学を出た頃に,矢野健太郎先生の「数学入門」という本を授業で読んでからです.
http://www.junkudo.co.jp/detail2.jsp?ID=0195341251
矢野健太郎先生が「数学の基礎」として位置付けたのは,集合と論理でした.
集合,その補集合,そして関数,命題などの論理学の基礎が,具体的な計算練習問題と共に丁寧に説明されていました.

ところで,少し前に,こんな記事がありました.
http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2007031700051

普段の寝不足、休日に補えません−。休みの日に遅くまで寝ている人ほど、不眠や抑うつを訴える割合の高いことが17日、働く人を対象とする内村直尚久留米大助教授(精神神経学)の調査で分かった。平日の睡眠時間の短さは、抑うつと強く関連していた。

この文章,後半「平日の睡眠時間の短さは、抑うつと強く関連していた」は,まあ良いです.ところが前半,「休みの日に遅くまで寝ている人ほど、不眠や抑うつを訴える割合が高い」というのは,この記事を読む限り,正しいとは限りません.その根拠は,この前半の文章の理由とされる,以下の報告です.

調査は昨年12月、首都圏の35〜59歳の勤労者約9000人を対象にインターネットで実施、約6000人から有効回答を得た。
 それによると、平均睡眠時間は平日6.1時間、休日7.3時間。休日の起床時間が平日より2時間未満遅い人が不眠を自覚する割合は25.9%なのに対し、2〜3時間で29.4%、3時間以上で33.3%と、平日との差が大きいほど不眠の人が多かった。

この文章では,要するに,一部だけ取り出しますと

休日に,平日より3時間以上遅くまで寝ている人の中で,33.3%の人が不眠と感じている.しかし,休日に,平日より2時間未満だけ遅く寝ている人の中では,25.9%の人しか不眠と感じていない.

ということを言っています.しかし,少なくともこの記事の調査の仕方を読む限り,関連,つまり相関があるということしか分かりません.因果関係,つまり二つの事象の一方が原因で一方が結果だということは分かりません.単純に関係があるということが分かるだけです.時間関係や世代関係などの調査結果は述べられていません.

従って,この記事は,次のように結論付けることもできます.

33.3%が不眠と感じている人たちの集団は,休日に平日より3時間以上も遅く寝ていた.しかし,25.9%の人しか不眠と感じていない人の集団では,休日でも平日より2時間未満しか遅くまで寝ていなかった.

この文章を読むと,感じることは,「ああ,日頃から寝不足の人は,休日は遅くまで寝たいものなんだなぁ」といったところではないでしょうか.

他の記事でも,書き方は全く同様です.
http://www.mainichi-msn.co.jp/today/news/20070317k0000m040082000c.html

平均睡眠時間は、平日が6.1時間、休日が7.3時間。平日と休日の睡眠時間の差が2時間未満の4238人のうち、不眠の自覚がある人は26.4%、うつ症状がある人が4.3%だった。一方、3時間以上(630人)では不眠32.7%、うつ6.8%と、時間差が大きいほど不眠やうつ症状のある人の割合が増えた。また、起床時間の差が大きいほど同様に不眠やうつ傾向が目立った。

数字が微妙に違うのが気になりますが,タイトルはなぜか同じ結論で,「遅寝をすると,かえって不眠になる」というものです.

Yahoo!ニュースなどを見ると,「この話題に関するブログ」というリンクがあって,このような記事を読んだ人の感想が読めます.
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070317-00000014-jij-soci
早く書き込んだ人の順に並べていくと,「休日に寝だめをすると抑うつを訴えるようになるそうだ。やばい。今日は10時くらいまで寝ていた。抑うつを訴えるようになったらどうしよう。」(←真に受けすぎ),「うーん。。。僕には当てはまらない。不眠や抑うつ等とは無縁である。 」(←自らの経験と照らし合わせる.マシ.),「ところが、土日に寝溜めしても逆効果なのだそうです。確かに、今、いつもより眠い、、、。」(←ああ...),「でもこれって昼眠くなったらどぅするんでしょう!?!?!しかもこんなこと記事にしたら、絶対学校の先生が「お前ら寝たら余計に疲れるんだぞ!!」って言うなこれは・・・」(←わはは.そんな先生に,「あの記事は論理的に正しいとは思えません」と反論してやって下さい)等々.


ところで,これらの新聞記事の結論,「寝だめは不眠になる」というのは,この記事内容からだと正しいとは言えませんが,間違っているとも言えません.分かるのは,「関係があるらしい」ということだけです.しかししつこいようですが,「寝だめは不眠になる」と断言できる内容ではありません.複数のマスコミが,どうして正しいとは限らない同じ結論を報道するのか,疑問に思った人は,論理的な思考ができる人だと思います.