トリイ・ヘイデン

トリイ・ヘイデン - なぜか数学者にはワイン好きが多い
これの感想,書き忘れてました.


どうせ心理学大衆化ブームに乗った精神分析本,と思って読んだら,ナマナマしさが圧倒的でした.この著者は,実際に豊富な臨床経験を積んでいるのでしょう.この本も,ストーリーは,著者がある学校に赴任して精神的な障害を持つ子の担任になり(まあ,障害の定義は別途必要ですが),その後,その子の両親が悪魔崇拝カルトにハマっていると確信して両親を告発し,その子と両親が離れるまでのドラマです.後書きにて,その子が立派な大学生になり,美しい女性として育っていると記されています.


とても有能で良心的な著者のノンフィクションとして,非常に良い本だと思います.クライアントとの格闘の様子は生々しく,関係者だったらイヤでも過去を思い出させられます.
ただし,難は一つ.この本の内容を信じるとすると,主役の子と悪魔崇拝カルトの関係は見出されません.
単に,その頃にたまたま今まで知らなかった,アメリカでその頃大流行した悪魔崇拝を知った著者が,無理やり結びつけたと思われます.内容から察すると,恐らく悪魔崇拝儀式は関係なく,両親あるいは知人(もしくはその両方)からの性的な児童虐待というのが実態だったのでしょう.本書における著者の悪魔崇拝カルトに対する知識は甚だ貧弱で,街の占い師の助言による,フロイトユング的なシンボルの指摘を信じるという,あまり科学的じゃない内容に落ちています.


それでも内容は良いです.
匿名の主役の精神的な障害を持った(とされる)女の子の言葉,心に響きます.
それは,著者が「どうしてそんなに体を折っているの?」と聞いた(とされる)時,

あたしのこころが落ちないようにするためだよ

という下りは,フィクションだろうがノン・フィクションだろうが,泣けてきます.