オノマトペの研究論文

先日に引き続いて作家の山本弘氏の文章の引用になってしまうのですが,氏の小論によると,次の本は「トンデモ本」だそうです.
http://www.amazon.co.jp/%E6%80%AA%E7%8D%A3%E3%81%AE%E5%90%8D%E3%81%AF%E3%81%AA%E3%81%9C%E3%82%AC%E3%82%AE%E3%82%B0%E3%82%B2%E3%82%B4%E3%81%AA%E3%81%AE%E3%81%8B-%E6%96%B0%E6%BD%AE%E6%96%B0%E6%9B%B8-%E9%BB%92%E5%B7%9D-%E4%BC%8A%E4%BF%9D%E5%AD%90/dp/4106100789
山本氏による,この本の評価は,次の文章で始まります.
http://www.amazon.co.jp/%E3%83%88%E3%83%B3%E3%83%87%E3%83%A2%E6%9C%AC%E3%81%AE%E4%B8%96%E7%95%8CU-%E3%81%A8%E5%AD%A6%E4%BC%9A/dp/4903063143

著者は日本テレビの番組『世界一受けたい授業』にも出演したことのある人.言葉の音には,意味とは独立して,潜在意識に何かをイメージさせる印象(サブリミナル・インプレッション)がある・・・という説明に,科学的な根拠があるかのうように思い込んでしまった視聴者も多いのではないだろうか.

だが,本書の中で,著者はこう書いているのだ.
(中略)
これは事実上,「私の説には根拠はありません」宣言である.

(2007年第1刷,pp. 154--161)

まぁ,山本氏はSF作家だけあって文章は面白いのですが,上記の黒川氏の著書については,私は直接読んでいないので,評価は出来ません.
しかし,心理学の論文で,この一般向け啓蒙書を研究の論拠として引用しているものがあるのは,ちょっと驚きました.

最近読んだ,そんな論文の一つは,次.

佐藤広英,吉田冨二雄,潜在連合テストによるオノマトペの印象評価〜SD法との比較〜,心理学研究,pp. 145--151,Vol. 80,No. 2,2009.

要するに,日本心理学会の論文誌の6月号です.
こんな文章がありました.

ただし,マーケティング分野では,業界内のセオリーや経験論に基づく議論が主であり,実証的に検討されてはいないとされる(黒川,2004).

この「(黒川,2004)」というのが,まさに新潮新書の一冊なのですが,「検討されてはいないとされる」と言っている論拠が,まさに山本氏が引用している文章と思われるのです.
孫引きになりますが,

ところが,私の研究以前意,ことばの音のサブリミナル効果についての科学的客観的研究は存在しなかったのだ.しかたがないので,私の研究をそのまま世界初のことばの音のサブリミナル効果分析法として提唱することにした.荒削りであることはご容赦いただきたい.

...著者が「荒削り」と述べている文書を引用する論文って...と思って該当の論文を見てみると,受稿2008.5.2,受理2008.11.1となっていて,半年で査読が通っています.恐らく,再投稿は無く一発で通ったのでしょう.

その他にも,この論文の引用論文は一般書籍が多く(20論文中,9論文が,ページの記載無しの一般書籍),心理学会のレベルを考えさせられます.

オノマトペ(もしくは,オノマトピア)という概念自体は興味深いのですけどね.
ユングとは違った意味での,汎用的な意識概念(ユングが言いたい潜在意識?)を探れそうなのですが...