スパコンを使って248次元物体攻略に挑む数学者たち

http://www.sciam.com/article.cfm?chanID=sa003&articleID=6C66165B-E7F2-99DF-3D86B476FFD18F17

With help from a supercomputer, researchers have mapped E8, one of the most complex objects in mathematics, shown here in an 8-dimensional form projected onto two dimensions.
超訳
スーパーコンピュータを使って,研究者たちは「E8」を可視化しました.「E8」は数学の中でも最も複雑なものの一つで,この図は8次元の「E8」を2次元平面状に投影したものです.

ということで,綺麗なコンピュータ・グラフィックスが掲載されています.

The team's calculation, which took four years to prepare and three days of number-crunching on a supercomputer to finish, has produced one of the densest mathematical results in history: a table of numbers that fills 60 gigabytes of disk space. If typed out on paper, the researchers note, the results would cover the island of Manhattan.
超訳
研究者たちのチームは,4年の歳月をかけて準備をし,スーパーコンピュータに攻略させるのに3日をかけました.その成果として,歴史的にも重要な結果が得られました.その結果の数字はハードディスクの60ギガバイトを占め,研究者によると,もし紙に印刷したとしたら,マンハッタン島を覆うくらいの広さが必要になるとのことです.

この記事で出てくる「E8」(TeX記法ではE_8:E_8)とは,リー代数と呼ばれる数学の分野で使われる記号です.

リー代数 - Wikipediaリー代数リー環は同じものと考えて結構です)

リー代数の中に「コンパクト単純リー代数」というものがあり,AからGまでの7種類があります.このコンパクト単純リー代数のうち,E6,E7,E8,F4,G2の5種類のことを「例外リー代数」と呼び,例外リー代数の中で最も次元が大きいものが「E8」です.詳細は省略しますが,「E8」は「階数」が8でリー代数としての次元が248次元です.コンパクト単純リー代数の中の「E」という種類には,他には「E6」や「E7」もあり,リー代数としての次元はそれぞれ78次元,133次元です.


記事の2ページ目には,数学上の未解決問題として知られていた「ケプラー予想」についても書かれています.


リー代数は,物理学と数学の架け橋の一つです.私自身の思い出としては,数論や群論が苦手なこともありリー代数からは逃げていたのですが,少し前にシンプレクティック数値積分法の論文を書く時に,ベイカー・キャンベル・ハウスドルフ・ポアンカレの公式(日本ではBCH公式として知られています)が必要になり,その公式について調べようと思うと必ずリー代数の本を読まなければならなかったので,3ヶ月くらいで必死に勉強した記憶があります.その公式は,例えば以下の本では,「キャンベル・ハウスドルフの公式」と書かれていました.
http://www.amazon.co.jp/%E7%89%A9%E7%90%86%E6%95%B0%E5%AD%A6%E7%89%B9%E8%AB%96-%E7%BE%A4%E3%81%A8%E7%89%A9%E7%90%86-%E4%BD%90%E8%97%A4-%E5%85%89/dp/4621049356
岩波数学辞典第3版でも,「Campbell-Hausdorfの公式」と書かれていました(ページ425.R).
http://www.amazon.co.jp/%E5%B2%A9%E6%B3%A2%E6%95%B0%E5%AD%A6%E8%BE%9E%E5%85%B8-%E6%97%A5%E6%9C%AC%E6%95%B0%E5%AD%A6%E4%BC%9A/dp/4000800167


というわけで,物理と数学の両方に興味がある人は,がんばってリー代数を勉強しましょう.群・環・体を勉強してから.