セルバーグ死去

8月上旬の話でしたか...今日になって「数学セミナー」誌を読んでて知りました.
weblog 死亡欄 - アトル・セルバーグ

米数学者のアトル・セルバーグ(Atle Selberg)、心不全のためニュージャージー州プリンストンの自宅で6日死去、90歳。

「ほとんど神話の中の科学者」の一人なので,結構ショックでした.
神話の中の人なので伝説には事欠きませんが,少し前に読んだ「素数の音楽」の中の,この節が印象に残っています.
http://www.amazon.co.jp/%E7%B4%A0%E6%95%B0%E3%81%AE%E9%9F%B3%E6%A5%BD-%E6%96%B0%E6%BD%AE%E3%82%AF%E3%83%AC%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%96%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9-%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%82%AB%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%87%E3%83%A5%E3%83%BB%E3%82%BD%E3%83%BC%E3%83%88%E3%82%A4/dp/4105900498

キーティングはそれまで,超一流の数論学者たちに向かって話をするというので,神経質になっていた.一介の物理学者たる自分が,数学者たちが長年理解しようと努めてきたことについて彼らに話をするというのである.しかし,24024という値を確認できたという事実が,自身となってキーティングを支えた.

聴衆のなかには,セルバーグもいた.今やこの分野の祖父ともいえる人物である.講演終了後,質疑応答の時間が設けられた.セルバーグについては,ある噂が流れていた.講演後の質疑応答で,「それはわたしが50年代に証明したことだ」とか「わたしも30年前に同じアプローチを試みたが,うまくいかなくてね」といったことを表明するというのである.

キーティングは,きっとそういうことをいわれるにちがいないと気を引き締めた.ところが,セルバーグは次々と質問を繰り出してきた.明らかに,この新しいアイデアの虜になったのである.キーティングがすべての質問に立派に答えると,セルバーグはこう断言した.「これは,正しいにちがいない」キーティングはサルナックの挑戦を受けて立ち,数学者にそれまで知らなかったことを教えたのである.サルナックは約束通り,キーティングにワインを手渡した.

...恐いよー.想像しただけで恐いですね.
学会発表を何度かしたことがある人だったら,恐さが想像できるのでは...

セルバーグのフィールズ賞受賞は1950年.
http://www.mathunion.org/medals/Fields/1950/index.html#0x82496a1f_0x0005e9f1

Atle SELBERG

born June 14, 1917, Langesund, Norway Institute for Advanced Study

Developed generalizations of the sieve methods of Viggo Brun; achieved major results on zeros of the Riemann zeta function; gave an elementary proof of the prime number theorem (with P. Erdös), with a generalization to prime numbers in an arbitrary arithmetic progression.

上のキーティング・サルナックの逸話は,1996年頃の話らしいです.するとセルバーグは79歳くらい.

似たような体験としましては,一松 信先生の前で2時間ほど講演をした時.他にも聴衆はいる中で,「それは間違っているのではないか」と突っ込まれないかとドキドキしました.
一松先生は1926年生まれだそうなので,現在81歳くらい.私が一松先生の前で話したのは5年くらい前なので,当時76歳くらい.
幸い,「よく調べてあるね」と言われてホッとした記憶があります.

セルバーグ博士,安らかに.